安保法案を巡る与野党の攻防は、激しさを増している。17日午前は、参院の特別委員会の鴻池委員長(自民)が委員会室に直接入って理事会を開こうとしたことを巡って、民主党の理事らが激しく反発した。委員長が委員会開会を宣言したにもかかわらず、30分以上にわたって審議がストップしたままとなり、野党議員が委員長席を取り囲んだ。委員会室の緊迫した空気は、NHKの中継を通じて全国に伝わっている。
与野党攻防の中身は冷静にみれば小学生の学級会レベルにもみえる。17日午前の紛糾は、それまで理事会室で開かれていた委員会の理事会を委員会室で開こうとした、手続き論だった。昨日は、野党議員が理事会室から委員会室に移ろうとする鴻池委員長を物理的に阻止したりしており、委員会再開には、委員長が委員会室に直接入るしかないと策を弄したものだった。
これを民主党の特別委員会理事の福山氏が「だましうち」となじり続け、その剣幕に委員長や与党理事が立ち往生してしまった。鴻池委員長はいったん委員会の休憩を宣言し、10分ほどの時間を置いて、委員会を再開させた。直後に、野党は委員長の不信任決議を提出し、鴻池氏は委員長を自民党の佐藤筆頭理事に委員長職を託して退席した。だが、その手続きに問題があると野党が応じず、特別委員会は止まってしまった。
くどくどと国会での経緯を説明したのは、国会という討議の場はしばしば、雰囲気が結果を作る面があるからだ。野党は土曜日以降の連休以降にまで採決がずれれば、休日で国会をとりまく反対派の数も増えて、空気はさらに変わるとみる。自民もそれを恐れ始めた。
国会は生き物のようなところがあってあなどれない。だが、数で勝る与党が採決に持ち込む時間的余裕はまだまだ十分だ。達観してみれば、安保法案の可決の流れは変わらない。では野党はどうして抵抗するのか。この攻防を国民が、どう受け止めるかで可決後の内閣支持率がどう推移するかに大きく影響するからだ。
70年談話で安倍内閣への支持がやや回復したこともあり、内閣支持率はおおむね40%台にある。内閣が揺らぎ始めるのは20%台まで支持率が落ちた場合といわれる。安保法制が可決した後には、「強引な可決」になるだけに、支持率が下がるのは確実だ。与党もそれは想定済みだ。
問題は、どこまで下がるか。衆院での可決のときを上回る10ポイントを大きく上回るような急落になるようなら、秋の臨時国会を含めて政局運営はそれだけ難しさを増す。
安倍政権は、政策テーマを経済政策に切り替えて支持率の低下に歯止めをかけることを目論んではいるが、いったん20%台半ば近くまで支持率が下がるようなら、回復は難しさを増す。支持率低迷のままなら、来年の参院選を戦えないとの声が自民党内からもでてくる可能性すらある。
野党にとっては、可決が避けられないと内心は思っていても、与党の強引さを見せ付けるのは大きな意味がある。いまの国会攻防は、来年以降もにらんだ、支持率獲得合戦という面があるのだろう。
与野党攻防は可決後の支持率めぐる戦い |
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安倍政権支持、「強引な可決」でどこまで下がるか
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(政治)
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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