8月投開票の横浜市長選挙に国家公安委員長という現職閣僚から立候補の考えを固めた小此木八郎衆院議員(6月22日で56歳)の人気が広がっていない。カジノ反対を鮮明にしたことで、自民党市議の間に戸惑いが広がっている。立候補を模索している現職市長の林文子氏(75)の陣営は勝機がでてきたと勢いづいているという。
横浜市長選は8月8日告示で、22日投開票。秋とされる衆院選挙の直前で、菅義偉首相の衆院選挙区、まさに地元での市長選挙とあって、国政にも影響を与える選挙としてとして注目を集めている。
現職の林市長は立候補に前向きだが、前回選挙の推進母体だった自民党市議団は高齢・多選を理由に推さない方針を固めていた。本命なき選挙になりつつあった。
このため、自民の県連会長も務める小此木大臣が自ら出馬を決断したとされる。横浜政界に強い影響力を持つ菅首相には1週間ほど前に直接、出馬の意思を報告した模様。菅氏に近い筋によると、首相は強く慰留したが、小此木氏は翻意しなかったという。この際、カジノ推進派の菅首相に、カジノ反対を公約にすることも伝えたようだ。
この週末には小此木氏出馬の報道が相次ぎ、地元の自民党市議団にも伝わったが、反カジノを鮮明にしていることで、支持は広がっていない。現職閣僚ということで一定の知名度はあるものの、選挙基盤である鶴見区、神奈川区以外では「無党派層はもとより、自公支持層からも票ははいりにくい」との見方が横浜の自民党のなかでは広がっている。特に無党派が多く、都心の企業に通勤する人が多く「横浜都民の居住区」といわれ、大票田の青葉区、都築区、港北区からは得票しずらいとみられている。一部に出た断トツの有力候補にはほど遠い状況だ。
野党系は立憲民主党が代表代行の江田憲次衆院議員が山中竹春横浜市立大学教授(48)を推し、同氏で固まりつつある。山中教授は医療統計学が専門で、コロナ対応にも発言していたほか、デジタルの専門家であることから無党派層への浸透も見込めると見られてきた。
ただ、当初、横浜でのカジノ建設にあいまいな姿勢だったとされ、反カジノの市民運動参加者などが支持に拒否感を示している。いまは反カジノをはっきりさせたが、こうした市民運動関係者からの反発は消えていない。反カジノの共産党も独自候補擁立に動いており、野党は分裂選挙を余儀なくされそうな情勢になってきている。
小此木立候補ににやりとしているのが、立候補を模索し続けてきた林文子市長(75)だ。カジノ推進派であることがはっきりしているだけに、反カジノ派候補が、小此木、山中、共産系と乱立となれば、相対的に有利に展開できると見ているから。地元政界では「林市長が最有力候補になるのではないか」と踏み込んだ分析もでてきている。
有力候補がでそろいつつある横浜市長選挙だが、正式な出馬表明はまだない。スキャンダル暴露など足の引っ張り合いもこれからで、情勢は流動的だ。だが、菅首相に近かったはずの現職閣僚、小此木氏の出馬が、保守層の支持を得られなかった林市長の追い風になるとしたら、皮肉な話といえそうだ。