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南シナ海仲裁裁定、「中国の完敗」と喜べない

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【軍事の展望台】裁定で「島」が「岩」に降格 どうなる沖ノ鳥島?

公開日: 2016/07/20 (政治)

沖ノ鳥島=Reuters 沖ノ鳥島=Reuters

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所は7月12日、フィリピンが2013年1月に提訴していた南シナ海問題について、フィリピンの主張15件の大部分を認める裁定を発表した。

 中国の主張してきた、いわゆる「九段線」については「法的根拠は無い」との判断を示し、満潮時に水没する「低潮高地」(干出岩)は「海域への権限を何ら生じさせない」と述べて、中国がその上に人工島を造っても、その周辺が領海や排他的経済水域(EEZ)にはならないとした。

 南シナ海の大部分を囲い込む形で、フィリピン、ベトナム、ボルネオ沖に引いた「九段線」は元々、1947年に蒋介石の中華民国政府が発行した地図に11本の線が描かれていたのが発端だ。49年に成立した中華人民共和国もそれを継承、53年にトンキン湾の島の一部をベトナム領と認めた際に2本を消して「九段線」となった。

 1947年当時の中華民国はその国民政府軍と中国共産党軍の「国共内戦」の最中で、南シナ海を実効支配するどころではなかったから、地図に描いた「十一段線」は大風呂敷を広げたにすぎない。線の緯度、経度も中国はいまだ示せておらず、当時の中国の地図でも線の位置はまちまちだ。

 こんなあやふやなものが海を排他的に支配する権限の根拠になるはずがない。仲裁裁判所が中国人が南シナ海で歴史的に航海、漁業を行ってきたことは認めつつ、「これは歴史的権利というより、公海の利用の自由に基づくもの」としたのは妥当だろう。

 また、「低潮高地」は「それ自体の領海を有しない」ことは国連海洋法条約13条に明記されているから、そのうえに造った中国の人工島が領有権の根拠とならないのも当然だ。

中国が無効と主張する理由は? 

 中国外務省はこれに対し、「仲裁法廷が出したいわゆる判決は無効で拘束力はなく、中国は受け入れない」と声明した。海洋法条約は第298条で「海洋の境界確定に関する紛争」については、いずれの加入国も拘束力を有する解決手続きを受け入れないことを宣言できる、と定めている。

 中国はこの条文に基づき条約批准時から適用除外を宣言しており、今回の審理には参加しなかったから、中国が「無効」というのにも根拠が全く無い訳ではない。仲裁裁判所でも一部の審理は「保留」にすべきとの論も一時あった。

 今回、仲裁裁判所は「中国が主張しているのは九段線の内側の諸資源に関する歴史的権限であって、南シナ海域に対する歴史的な権限ではない」として、同裁判所に管轄権がある、と結論付けた。

 もし争点が、島や岩礁、海域の領有権争いなら仲裁裁判所に管轄権はないが、資源を巡る紛争だから審理は可能、との説明だ。だが、実態としては島嶼の領有権、海洋の境界に関する紛争があるのだから、仲裁裁判所の管轄権論には疑問の余地がある。

 とはいえ、紛争当事国の双方が裁判で決着をつけることに同意しないと国際的な裁判が始まらない今日の原則では、分の悪い側はまず裁判に応じないし、大国は弱小国を圧迫しがちになる。5大国は国連安保理で拒否権も持つからロシアが東ウクライナの反徒を支援したり、アメリカがイラクに侵攻したような場合にも、国連はブレーキをかけられない。

 それを思えば、国際司法裁判所や常設仲裁裁判所、海洋法裁判所などの管轄権がなるべく拡大されることは世界の公正、平和のために有益だ。フィリピンだけが訴え、中国は応訴しなかったのに、曲りなりにも管轄権の理屈はつけて裁定を出した今回の仲裁裁判所は貴重な先例を作ったとも考えられる。

「岩」への降格はフィリピン、ベトナムに打撃

 今回の裁判は欠席裁判で「中国の完敗」と報じられるが、実はフィリピンや他の関係諸国にとっても喜べない部分がある。「すべてのスプラトリー諸島(南沙諸島)における島々は法的にはEEZや大陸棚を生じさせない岩である」との結論だ。

 「島」ならば海岸から12海里(約22キロ)の「領海」を持ち、その外側に12海里の「接続水域」を設けることができ、さらに200海里(約370キロ)のEEZ(排他的経済水域)の基点となり、その下の海底は「大陸棚」として資源を排他的に利用できる。だが、「岩」については「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は排他的経済水域または大陸棚を有しない」と同条約121条で定められているから領海と接続水域しか持てない。

 南沙諸島には無数と言えるほどの小島、岩礁、浅瀬があるが、従来一般的には12ヶ所が島と呼べそうだと言われてきた。そのうちベトナムとフィリピンが各5島、台湾とボルネオ島西岸を領有するマレーシアが各1島を確保し、それぞれが1つずつ滑走路を造っていた。日本は1938年に南沙諸島を「新南群島」と名づけて台湾南部の今日の高雄市に編入したが、その際には13島の名を挙げている。

 中国は南沙では出遅れたため、他国が手をつけていなかった岩礁や低潮高地の周辺を埋め立てたが、今回の裁定では満潮時に海面上に出ているものは、これまで「島」と呼ばれていたものも含めすべて「岩」にすぎない、となった。先発のベトナム、フィリピンなどにとって、「島」を確保しておれば、それから200海里以内の海で漁業権を独占できるし、海底油田などの資源開発も排他的に行える。だからこそ中国や他の隣国と対立して島の確保に努めてきた。だが、それらが全て「岩」に降格されれば、小さい岩礁とその周辺12海里の領海などだけを保持しても経済的価値は乏しい。この裁定は元々「島」らしき物を持っていなかった中国よりも、先発のベトナム、フィリピンなどに対する打撃が大きいだろう。

 ベトナムとフィリピンおよびボルネオ島の間の南シナ海は幅が約1000キロあり、両岸からそれぞれ200海里(約370キロ)のEEZの外の南シナ海中央部に南沙諸島の大部分がある。仲裁裁判所が南沙諸島の島をすべて岩としたことで、その海域がどの国のEEZでもないと国際的に認知されるようになると圧倒的に優勢な中国漁船団が自由に操業できることになるし、フィリピン、ベトナムなどによる海底資源の開発も行いにくくなる。

太平島も「岩」に

 特に問題なのは台湾が終戦直後から支配してきた南沙諸島北部の太平島だ。ここは長さ約1300メートル、幅約370メートル、南沙諸島中最大で水も出るし、森が茂り、野菜畑もあって、人が住める。日本のラサ工業が1919年(大正8年)から燐鉱石の採掘を行い、それが採算割れで撤退した後、ベトナムからフランス軍が来て占拠したこともあったが、1938年に日本は「長島」と名づけ、新南群島の1島として、日本領だった台湾に入れ、第二次大戦中には日本海軍の通信部隊などが駐屯した。

 終戦直後に中華民国は同島に軍艦「太平」などを派遣して確保し広東省に入れ、その後も台湾の海兵隊が駐留、短い滑走路も造られた。台湾は2008年にC130中型輸送機が離着陸できる飛行場を完成させ、軍人を主に約160人が住んでいる。

 日本は1952年、当時は中国の正統政権と認めていた台湾の中華民国との日華平和条約で台湾、澎湖島などとならんで「新南群島」を放棄した。のち南沙諸島の領有権で中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイが対立すると、日本は捨てた領土の件で「あれは中国に譲りました」などと言って他の諸国にうらまれるのは馬鹿らしいから「放棄はしたが、どこに譲ったとは書いていないから、帰属は未確定」というのが公式の立場だ。だが、それでは「台湾本島の帰属も未確定か」と言う変なことになるし、すでに中華民国が確保していた島を2国間条約で放棄したのは、台湾を含む中国に渡した、と解するのが妥当と思える。

 中国が日華平和条約を持ち出せば「九段線」よりはるかに強い領有権主張の根拠になるだろうが、当時中華人民共和国政府は台湾の中華民国を「偽政府」と呼び、それとの条約、協定は無効だ、と言っていたから、いまさらそれを担ぎ出すわけにもいかない、というこっけいな状態だ。

 仲裁裁判所が太平島も岩である、としたのは、もし同島だけを「島」と認め、EEZや大陸棚を持てることにすれば、原告のフィリピンなどが怒るから「公平」のために全てを「岩」としたのだろうが、台湾が激しく反発したのも当然だ。

太平島より はるかに小さい沖ノ鳥島

 だが、太平島が「岩」だとなれば、日本が必死で浸食による水没を防ぎ、さらに港などまで建設して、すでに1000億円を注ぎ込んだ沖ノ鳥島はどうなるか、との問題が生じる。太平島の面積は51万平方メートルであるのに対し、沖ノ鳥島は「北小島」が7.9平方メートル(畳4.8枚分)で約6万5000分の1、満潮時には16センチが水面上に出るだけだ。「東小島」は1.6平方メートル(同1枚分)で僅か6センチしか水面上には出ない。地球温暖化による海面上昇で水没しそうだ。

 日本政府はこれを「島」だとして、その周囲200海里にEEZを設定している。その面積は41万平方キロで、日本領土の110%に当たる。中国、韓国などは沖ノ鳥島は日本の領土であることは認めつつ、「島ではなく岩ではないか。それを基点とするEEZは認められない」と言う。これに対し、外務省は「海洋条約では岩の定義は決まっていないから島である」と主張してきた。

 同条約121条「島の制度」は
① 島とは自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。
② 3に定める場合は除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される(つまり島は本土と同様にEEZ、大陸棚を持てる、の意味)
③ 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は排他的経済水域または大陸棚を有しないーーと定めている。

 これを素直に読めば、人が住めないか、または独自の経済的生活を保てないものは島でなく、岩であると書いてあるように思えるが、外務省など日本政府は「岩とはどんな物かが条約に書かかれていないから沖ノ鳥島は岩でない」と主張する。

 また、「対日平和条約第3条ではアメリカが施政権者となって信託統治をする対象の地域のひとつとして『沖ノ鳥島』が書かれているから歴史的にも島である」とも論じている。

 だが、この条約の正文は英、仏、スペイン語で、たとえば南鳥島は英文では「マーカス・アイランド」と書かれているのは対し、沖ノ鳥島は16世紀にスペイン人が発見した際につけた「パレセ・ヴェラ」(帆の形)とあるだけで、「島」を意味する語は入っていない。おそらく発見当時は帆のようにみえる岩がそびえていたのだろう。

紛争を防ぐ「岩」との認定

 また、日本政府は海底地形の連続性などを根拠に7海域で大陸棚を200海里を超えて拡張することを国連の大陸棚限界委員会に申請し、2012年4月に4海域でそれが認められた。そのひとつは四国の南方にある「四国海盆海域」で、これが沖ノ鳥島周辺に日本が設定しているEEZの北に隣接していることから、外務省は「国連は沖ノ鳥島を基点とするEEZや日本の大陸棚を認めたからこそ、それを北に延長することを認めた」と言う。

 だが、大陸棚限界委員会の勧告は沖ノ鳥島を基点とした大陸棚を北に向けて延長するのか、それとも四国沖の日本の大陸棚を南に延長するのか明記しておらず、沖ノ鳥島が島か岩かの論議に引き込まれるのを避けている。

 今回の仲裁裁判所の裁定は、「島」と認められる基準をきわめて厳しくしたもので、これが判例となれば、中国、韓国の「沖ノ鳥島は岩である」との主張に相当に有利となる。41万平方キロものEEZと大陸棚を確保できるか否かの瀬戸際にあるだけに「中国の完敗」と喜ぶのは浅慮であろう。

 一方、大局的に考えれば1982年に海洋法条約が採択され、94年に発効して以後、その本来の目的である平和、友好関係の強化とは逆に、島嶼の領有権やEEZでの漁業、資源開発を巡る紛争が頻発している。

 かつてならほぼ無価値でどの国のものか定かでなかった無人島も、周囲200海里のEEZや大陸棚を持つとなれば、にわかに大変な価値が出て、各国がそれを確保しようとするのは自然の勢いで、紛争が起こりがちとなる。それを防ぐためには、小さい無人島などにはEEZや大陸棚を与えないよう、「岩」と認定する今回の仲裁裁判所の判断の方がよいのかもしれない。だが、すでに1000億円を沖ノ鳥島に投じた日本としては、そうした流れを支持するのは困難だろう。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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