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国と佐川氏を訴えた赤木雅子さんが語る「底抜けに明るかった夫」

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【望月衣塑子の社会を見る】財務省文書改ざん裁判、15日から始まる

公開日: 2020/07/14 (政治)

俊夫さん、雅子さんの結婚式 俊夫さん、雅子さんの結婚式

望月衣塑子 (東京新聞記者)

 ――佐川宣寿元国税庁長官らによる指示で改ざんを強要され、自死に追い込まれたとして、近畿財務局職員だった赤木俊夫さん=当時(54)=の妻、雅子さん(49)が、国と佐川氏を相手に1億1千万円の損害賠償を求めた裁判が15日、大阪地裁で始まる。俊夫さんの死から2年。雅子さんの心にはぽっかりと穴が空き、時間は止まったままだ。それでも料理をしたり、俊夫さんが好きだった落語を鑑賞したりと、少しずつ前を向き始めている雅子さんに、俊夫さん(とっちゃん)との思い出とともに、裁判に臨むいまの心境を語ってもらった。

 とっちゃん(俊夫さん)はとにかく、明るくてよく笑う人でした。くよくよしない、曲がったことが大嫌いな太陽のような人。出会いは1994年12月3日。私が岡山市の薬局に働いていたとき。とっちゃんは、近畿財務局の和歌山財務事務所に勤めていました。「変わり者だけど会ってみない?」。とっちゃんが熱中していた書道教室で知り合った、共通の友達を通じて倉敷市のイタリアンレストランで会ったのが初めてでした。

 何を話したか細かくは思い出せません。でも、話が弾んでおかしくて、お互いよく笑ったのは覚えています。帰り際、とっちゃんは「うん、いいな。この人は大阪にぴったりだ。連れて行きたいな」とおどけて話していました。その後、何度か電話をして12月29日に2回目のデート。倉敷の割烹のお店に行った後、駅前のパブに寄り、帰り際に「結婚しよう」とプロポーズされました。

 とっちゃんとの会話は面白くて話が尽きませんでした。なにより、底抜けに明るい、誠実そうな人柄を見て、「この人となら幸せになれるかな」と直感しました。けれど、少し早すぎるのですぐに受けるのもどうかと思いまして。「ちょっと考えさせて下さい」と伝えました。

 12月31日に電話で「会って言いたいので年明けに会えますか」と返事をして。翌年1月3日に正式に「よろしくお願いします」と伝えました。そのとき、すごく喜んでくれて。1月6日には両家の間で釣書を交わしました。早いですか?でも自然な流れでした。

 結婚式は6月18日に、倉敷市の旅館広間で披露宴をあげました。お色直しを含めて3回。ちょっぴり恥ずかしかったのですが、私は成人式の時に母が買ってくれた黒の振り袖で。とっちゃんは大好きなカラーのスーツを着ました。とっちゃんは、お母様がお仕立ての仕事をしていた関係で、スーツがとにかく好きでした。ネクタイとチーフを合わせるなど、お洒落でした。

 ――多趣味の俊夫さんが心酔していた一人が建築家の安藤忠雄さんだった。家の本棚には、安藤さんの建築の写真などの本が数多く並ぶ。高梁市成羽美術館など、全国にある安藤さんが設計した建物を見に雅子さんと2人でよく出かけたという。安藤さんの講演会にも何度も足を運び、安藤さんが東日本大震災の遺児支援のために立ち上げた「桃・柿育英会」にも年一回、自動引き落としで寄付をしていたという。俊夫さんは「安藤さんは高卒。でも、独学で一級建築士の資格を取得した。高卒で東大教授になったなんて人は安藤さんくらいだ。本当にすごい人や」と語っていたという。

 とっちゃんは高校卒業後、下の弟を大学に行かせるために国鉄に入社しました。家にあまりお金がなかった自分と安藤さんをどこか重ね合わせていたのかもしれません。その後、立命館大学の夜間コースに進学し、大学に近い近畿財務局京都財務事務所に異動させてもらいました。立命館大での4年はとっちゃんにとって単なる学びを超えて、精神的な支柱を形づくる上でも貴重な時期だったと思います。

安藤忠雄さん設計の高梁市成羽美術館の俊夫さん

 全国の安藤さんの建築物を巡り歩き、何枚も写真を撮っていました。それほど好きだったのですが、改ざんを強要された後の2017年7月に京都府京丹後市の「和久傳ノ森」を訪れたときには、1枚しか写真を撮りませんでした。側から見ていても「心ここにあらず」でした。美を感じる心さえ、奪われてしまったのだと思いました。

 近畿財務局の中でも、納得がいかないと議論をして筋を通そうとする人だったようですから、周囲からは「扱いづらいやつ」と思われていたかもしれません。でも、不器用だけど自分に誠実で正直なとっちゃんを私はずっと尊敬していました。大人になっても、そんな風に自分の信念を貫ける人って、そういないと思います。人にどう思われるよりも、自分に誠実に生きる。書道に熱中するのも、落語や美術、コンサートを堪能するのも、「人間が生きるとはなんなのか」「何のために自分は生きるのか」という気構えにつながっていたように思います。

 ――とっちゃんとの思い出や、改ざん後に変わっていく姿を記した雅子さんの著書「私は真実が知りたい」(文藝春秋)の帯には、雅子さんが描いたとっちゃんの顔と並んで、安倍晋三首相、麻生太郎財務相、佐川宣寿元国税庁長官の似顔絵も載っている。似顔絵の安倍首相らには黒目がない。雅子さんはその意味について「どこを見ているんですか。どうかこちらを、私たち国民の方を見てください」という思いを込めたと話す。

 とっちゃんが亡くなってからも、安倍首相が主催する「桜を見る会」の参加者名簿を内閣府人事課が破棄したり、政府の専門家会議の議事録が作成されなかったり、おかしなことが続いています。きっと世の中には、不正や不誠実な事を目の当たりにして、とっちゃんのように沈黙を強いられている公務員が沢山いるのだと思います。そういう人達の声をすくい上げられるような制度を政府には、しっかりと整えてもらいたいです。

「改ざんが早く発覚していたら、とっちゃんは死なないで済んだのでは」と聞かれたことがあります。でも、改ざん後に苦しむとっちゃんを見ていて、私はそんな気がしないのです。自分がやったことに対して何よりも自分自身が、一番後悔していました。人にどう思われるかより、自分自身がどう生きるかを常に考えていました。財務省理財局の命令とはいえ、人の道に背いた事をした自分を、最期まで許せなかったのではないかと思います。

 ――第一回口頭弁論を前に、被告の国と佐川氏が答弁書を提出した。関係者によると、どちらも争う姿勢を示しているが、佐川氏側は「国家公務員がその職務を行うにつき、故意または過失によって違法に他人に損害を与えた場合、公務員個人はその賠償の責任を負うものでない」などと、最高裁の判例を用いて棄却を主張しているという。だが、財務省や佐川氏が指示した改ざんは、そもそも「国家公務員の職務」に当たると言えるのだろうか。雅子さんは裁判にこんな期待を寄せる。

 国の主張を聞くと、改ざんの首謀者は佐川氏と断定しているようにも見えます。しかし、その先はないのでしょうか。佐川氏が何度も執拗に、現場に改ざんを求めたのはなぜでしょうか。佐川氏には、その動機を正直に話して欲しいのです。彼が改ざんを近畿財務局の職員たちに求めた動機と経緯の真相を話すことでしか、天国にいるとっちゃんは報われないのですから。
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望月衣塑子(東京新聞記者)
1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒業後、東 京・中日新聞に入社。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件 を中心に取材する。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をス クープし、自民党と医療業界の利権構造を暴く。東京地裁・高裁での裁判を担当 し、その後経済部記者、社会部遊軍記者として、防衛省の武器輸出、軍学共同な どをテーマに取材。17年4月以降は、森友学園・加計学園問題の取材チームの一 員となり、取材をしながら官房長官会見で質問し続けている。著書に『武器輸出 と日本企業』(角川新書)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(共著、あけび 書房)、「THE 独裁者」(KKベストセラーズ)、「追及力」(光文社)、「権力 と新聞の大問題」(集英社)。2017年に、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励 賞を受賞。二児の母。2019年度、「税を追う」取材チームでJCJ大賞受賞
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