東京都は昨年12月22日に、「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン~」を発表し、今後4年間の取組みとして、「セーフ シティ」「ダイバーシティ」「スマート シティ」の3つのシティを実現していくとした。今後の都政運営のバイブルと言える。
本文は390ページからなり、「ダイバーシティ」の政策の柱5「誰もが活躍できるまち」に、満員電車ゼロへの取り組みが記載されている。どのメディアも取上げないが、東京都として「満員電車ゼロ」の開始を宣言したのである。関連ページを抜粋した。取組みは、供給に関する「技術面」と需要に関する「働き方」の合せ技だ。
小池知事の公約「満員電車ゼロ」は、8年前に小池さんの推薦文をお受けして出版した私の拙著『満員電車がなくなる日』が元ネタで、昨年11月に改訂版を出版した。
絵になりやすい2階建て電車ばかりに注目が行き、時差出勤・在宅勤務・サテライトオフィスといった需要を減らす、散らす方策の方が効果的との意見を多数受けるが、2階建て電車より安く、早く実行できる方策が多数ある。運行効率をアップすることで、安全を維持しつつ輸送力を2~3倍に増強でき、その資金は着席サービスを有料化することで確保できる。
現行、最混雑区間ピーク1時間の“平均”混雑率が180%を越える路線がいくつもあるということは、200%以上の車両が相当数あるということだ。輸送力を増強せずに100%以下にするには、ピ-ク時の需要を半分以下にしなければいけない。
仮に、「働き方」の取組みにより需要を半分以下にできたとしたら、鉄道各社の収益は激減する。さらに、ピーク前後も満員電車ゼロとするために増発が必要でコスト増となる。収益激減かつコスト増では経営が立ち行かなくなる。
一方、輸送力を増強する「技術面」の取組みは、コストは増大するものの、着席サービスをピーク時にもふんだんに提供できるようになり、その価格を適正に設定することで大幅な増収となり、増大するコストを充分に賄える。すなわち、鉄道事業のコストと収益が呼応して増大し、雇用も増大し、産業として発展できるということだ。
「満員電車ゼロ」を達成するのに、鉄道各社の経営を維持・改善することが不可欠であり、「働き方」の取組みも重要だが、「技術面」の取組みの方がより重要ではないだろうか。
「都には交通局以外の鉄道各社を動かす権限がない」との批判もあるが、都は鉄道ユーザーの代表として大きな発言力を持ち、「働き方」とともに「技術面」の取組みも主導して欲しい。鉄道会社には「都が政策として取組んでくれることで、安全軽視・利用者負担増反対といった声を受けずに済む」との声もある。
「満員電車はなくなって欲しい」との期待感とともに、「無理でしょ」との冷ややかな声も広まっている。1月7日(土)19:30からジュンク堂書店池袋本店にてトークイベントを開催し、「できるかも」と思ってもらえるようにお話するので、多くの方にご参加願いたい。
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公開日:
(政治)
Reuters
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阿部 等(交通コンサルタント会社「ライトレール」社長)
1961 年生、東大工学部都市工学科大学院修了。JR東日本(1期生)に17年間勤務し、鉄道の実務と研究開発に従事。2005年、交通コンサルタント会社「ライトレール」を創業し、交通計画のコンサルティングに従事。各種メディアにて鉄道に関してコメントする機会も多い。
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