「戦後70年」の夏は安倍首相談話で騒がしいが、いま真剣に案ずるべきは、10年後の「戦後80年」(2025年)ではないか。
日本近代史の「40年周期説」がある。明治維新(1868年)以来、富国強兵に励んだ日本が、日露戦争に勝利(1905年)し、列強に入るまでの約40年は、成功のサイクルだった。
ところが、日露の戦勝で「一等国」と増長した日本は、軍事的冒険にのめり込み、第2次大戦に惨敗(1945年)、焦土と化した。この40年は、国を滅ぼした失敗のサイクルだ。
敗戦を起点に新たな40年周期を想定すると、1985年が成功の頂点、2025年が破局のどん底となる。確かに85年は、戦後「経済」に特化した日本が、経常黒字世界一の「経済大国」として、峠に立った年といえよう。
この年のプラザ合意を機に円高が加速。あわてて財政・金融政策を吹かせ、バブルが膨んだ。以後は失敗のサイクル。この先10年を見通し、どんなリスクが予想されるのか。
まず、安全保障上のリスクは中国の軍事的台頭。尖閣諸島をめぐる日中のさや当てが、大事に至らぬとは言い切れない。朝鮮半島有事もある。北朝鮮の体制が持続する方が奇跡だが「核つき」の北の崩壊の余波が、極東の平和をかき乱すかもしれない。
第2に東日本大震災以来、日本の地殻が落ち着かない。中央防災会議の2013年の予測だと、中部・西日本に大被害をもたらすマグニチュード(M)8級の南海トラフ巨大地震の30年以内の確率は60~70%。最悪の場合、死者32万人、経済被害は220兆円にもなる。
M7級の首都直下地震も、同じ30年間に70%の確率で起きるという。最悪の場合、死者は2.3万人、経済被害は95兆円の想定だ。
目を経済に転じると、1000兆円を超す国の借金が気がかりだ。政権は2020年に財政の基礎収支を黒字化するという。その前提は実質2%、名目3%の成長が続くこととか。今世紀になって、そんな成長率が持続した試しはない。「希望的」財政再建計画が失敗に帰せば、財政破綻が現実になる。
第3に人口構造。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計で2025年の総人口は、1億2000万人強。65歳以上が3割を超える。また「団塊の世代」が75歳以上(後期高齢者)になって要介護認定が800万人に増える。医療、介護、年金制度の持続可能性が揺らぐ。
以上のリスクが、別個にやってくるとは限らない。幕末の安政年間には、東海・南海地震の翌年に江戸直下地震が起きた。また、大震災の経済損失が、経済危機や財政破綻の引き金を引くかもしれない。そんなピンチが他国の軍事攻勢を誘発するかもしれない。
もっとも、40年周期説を運命論にしてはならない。破局を避けるため具体的なリスクをいかに減らすか。この先10年の課題だ。
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40年周期説の節目は2025年、セオリー通りならどん底
公開日:
(政治)
広島原爆ドーム= Attribution License
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土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版) |
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