核家族化している都会生活では葬送の手順は不慣れなことばかり。生き字引も周囲におらず、悪意もなくトラブルに巻き込まれることも少なくない。当世のお墓事情をお墓問題研究所所長の宮浦孝明氏に相談ごと形式でつづってっていただこう。
相談ごと まさかお寺をクビになるなんて…こんな事があるんですね。 女房を亡くしたのは私が定年退職した翌年でした。ショックでした。幸い息子二人がしっかり者で葬儀を全部仕切ってくれたので、私は喪主として座っているだけですんだんですが。四十九日が近付いてきたので田舎のお墓に納骨しようとお寺に電話したんです。すると住職さんが烈火のごとく怒り出しました。葬儀での読経や戒名は葬儀社に紹介してもらったお坊さんにお願いしたんですが、それがまずかったようです。
相談ごと まさかお寺をクビになるなんて…こんな事があるんですね。 女房を亡くしたのは私が定年退職した翌年でした。ショックでした。幸い息子二人がしっかり者で葬儀を全部仕切ってくれたので、私は喪主として座っているだけですんだんですが。四十九日が近付いてきたので田舎のお墓に納骨しようとお寺に電話したんです。すると住職さんが烈火のごとく怒り出しました。葬儀での読経や戒名は葬儀社に紹介してもらったお坊さんにお願いしたんですが、それがまずかったようです。
離壇だ、と言われました。初めて聞いた言葉だったんですが要するに破門、クビだということらしいです。そのお寺にある先祖代々のお墓も撤去するように言われました。住職さんの言葉に従うしかないんでしょうか。お墓を移転するとなるとまたおカネもかかりますし正直困っています。
このようなケースが最近増えてきたようです。今も続く檀家制度は江戸時代に定着したもので、当時は住民の移動などほとんどなかったわけです。ところが時代の流れと共に海外も含めて大きな移動・移転が当たり前のことになってきました。お寺と檀家との距離が離れてゆく事によって、ずっと守り伝えられて来た関係が風化してきた、と見ることもできます。しかし原因を一言で言うならば、お寺の檀家になる、という事が何を意味するのか理解していない人が増えてきたという事なのです。
お寺は檀家全員のものです。住職さんは代表に過ぎません。檀家にはお寺を支えていく義務があります。毎年の御布施もそうですし、本堂の建て替えのための寄付も義務の一つなのです。また各人の宗教的行事、特に葬儀については、まず檀家となっているお寺(菩提寺)の住職さんに相談するのが義務となっています。このケースで住職さんがお怒りになったのもお寺の論理からすると当然の事といえるでしょう。
お寺は宗旨と伝統に基づいて宗教行事を行うことが使命であり、それはお寺である限り譲ることのできない一線なのです。ちょっと気を付ければ防げていたトラブルですが、正直なところ住職さんの方に分があると考えます。
では今後どうするか、という点ですが、道は二つに絞られるでしょう。一つは住職さんに謝って、檀家の立場と今あるお墓を維持する方向です。できれば檀家筆頭の方に間に入っていただき和解を図ってもらえばうまくいく事が多いようです。だたし法要のやり直しや戒名の付け直しを求められる事が多いのでそれなりの出費になります。
二つ目の手としては住職さんに従ってお寺と縁を切ってしまう事です。けんか別れになってしまうので余り気分はよくありませんが、もしお寺との付き合いをやめたいとお考えならこれしかありません。しかし新しいお墓の手配や今あるお墓を更地に戻す費用などがかかることになります。こちらの方が数倍の出費となるでしょう。
最近は上記のようなケースでもだいぶ融通を効かせてくれるお寺が増えたようですが、それでもお寺との付き合い方の基本を押さえておくことは必要といえます。
宮浦 孝明(みやうら・たかあき)氏 お墓問題研究所所長。本業は小金井行政書士事務所所長・行政書士だが、行政書士としてお墓をめぐるトラブルの処理に数百件はかかわり、業界内でも「お墓の博士」で通っている。法律面での争い事相談に強いほか、お墓をめぐる諸費用、お礼などにも詳しい。