相談ごと 「先の地震で家のお墓も被害を受けました。随分前に作ったものだったので耐震構造ではなかったのです。棹石っていうんですか?中心の石が見事に倒れて角の部分が大きく欠けてしまいました。石屋さんからは建て替えを勧められ、私もそろそろ、と考えていた時です。ガラス製のお墓がある、ということを知りました。ネットの動画で見つけたのですが、海外ではもうかなり増えているそうです。光を受けて輝く様は、もうたまらない美しさ。私はこれしかない、と思って石屋さんに「ガラス製のお墓を作りたい」と言った所、それは無理だ、という返答。その石屋さんは従来の石のお墓が専門で、ガラス製のお墓は作ったことがない、と言うのです。じゃあガラス製のお墓を作れる所を探してみる、と言うと、それも無理だ、と言います。なんでも家のお墓の担当はその石屋さんで、他の業者に頼むことはできない、ということらしいのです。その石屋さんがガラス製のお墓を作れない以上あきらめるしかないのでしょうか?」
結論から言いましょう。あきらめて下さい。これは「指定石材店制度」と言われる商慣習の問題です。民間の霊園と寺院墓地のほとんどすべてにおいて、この制度が生きております。つまりその霊園にお墓を作ろうとする段階で、担当の石屋さんが決まります。そしてそれは、その石屋さんが廃業でもしない限り永遠に続いていくことになっています。これは判例で認められた商慣習で、くつがえすのは容易ではありません。
どうしてもガラス製のお墓にこだわるのなら、まずそういう技術を持った石屋さんを探し、そこに新たな霊園を紹介してもらってお墓を移転するしかありません。おカネはかかりますがそういう手は残されています。
参考までに担当の石屋さんがどのように決まるかをご説明しましょう。例えばあなたが新たにお墓を売り出している霊園を訪ねたとします。門をくぐると石屋さんの営業マンが小走りにやってくるでしょう。そして、「お墓をお探しですか?」「チラシをお持ちですか?」などと訊いてきます。あなたがその時に持っていた新聞の折り込みチラシを見せると、営業マンはそのチラシに載っている石屋さんの名前を素早く確認します。その時あなたの担当はチラシに載っている石屋さんと決定されるのです。
チラシを持っていなかったらどうなるか?営業マンはにっこり笑って、「では私がご案内しましょう」と営業トークが始まります。この時にあなたの担当は、その営業マンの所属する石屋さんと決まったのです。
なんか変だな、と思われるかもしれませんが、このような商慣習がお墓の世界ではしっかりと生き残っているのです。
宮浦 孝明(みやうら・たかあき)氏 お墓問題研究所所長。本業は小金井行政書士事務所所長・行政書士だが、行政書士としてお墓をめぐるトラブルの処理に数百件はかかわり、業界内でも「お墓の博士」で通っている。法律面での争い事相談に強いほか、お墓をめぐる諸費用、お礼などにも詳しい。