去る9月24日から30日は結核予防週間だったことを御存じでしょうか?
結核はすでに過去の病気と思われている方も多いかもしれませんが、とんでもありません。世界では、今でも年間160万人が結核で命を落としており、世界の死亡原因のトップ10に入っています。コロナによる死亡が現在100万人を越えたところですから、いかに大きな数字かが分かると思います。
日本では医療体制が整備され、年々結核に新しく罹患する患者数が減少していますが、世界で欧米先進国がほぼ到達している低蔓延国の水準(人口10万人当たり10人)には、いまだに達しておらず、2019年で11.5と中蔓延国に甘んじています。もっとも、感染者の内訳は高齢者が約7割、途上国出身外国人の発症が約1割を占めています。
我が国での結核による死亡は、年間2300人程度で、コロナによる死亡の約1600人(2020年10月)を上回っています。日本についてはコロナに対するマスクや手洗い、ソーシャルディスタンスなどの衛生対策や外国人入国制限などもあり、結核の新規発生はこれまで以上に減っており、当初の目標であった2020年の低蔓延国化も視野に入ったといえそうです。
しかし、これだけ医学が進歩した現代にあっても、抗生物質の利かない耐性結核の増加など結核は依然として世界最大の感染症脅威の一つであることは間違いありません。
結核は呼吸器感染症で、一般的な予防策はコロナと共通する点が多く、その効果が期待できます。しかし、コロナ対策に関連しては、その医療上の副次的な問題も明らかになってきており、ある意味ではこれらがより大きな問題になりつつあるようにも思われます。
それは、健診や一般診療を含む受診控え、ステイホームなどにより、運動不足・高齢者のリハビリ不足とその結果としてのメタボリック症候群の増加、がんも含め疾病発見の遅れ、糖尿病や循環器疾患などの慢性疾患の悪化や認知症の進行への対応の遅れなどです。
結核の新規罹患の減少にも、受診や発見の遅れが関係している可能性も指摘されています。
また、メンタル面ではストレスの増加、アルコールや薬物依存の増加、ひきこもり・うつ・相次いだ芸能人などの自殺の増加などが見られており、様々な分野にわたる雇用・経済情勢の悪化も関係していると思われます。
最近、米国トランプ大統領がコロナに感染し緊急入院するなど、コロナ・パンデミックはまさに現在進行形で、欧州では春先を上回る第2波などが来ていますが、その死亡率は明らかに低下しています。また、治療方法の確立、治療薬やワクチンの開発なども進められており、依然気を抜けないとはいえ、状況は大分変わってきています。
そのような中、コロナ対策を進めつつ、結核対策を含め健康問題の全体を総合的に見据えて、社会経済と感染症対策の両立とバランスをどうとるかなど、必要な新しいライフスタイルの確立を急ぐ必要があります。
コロナばかりに目を奪われて、より重大なものを見逃してはいけません。
コロナばかりに捉われていては |
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【医学者の眼】コロナより多い結核死亡者数
結核菌=pd
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中島 正治(医師、元厚労省局長)
1951年生。76年東大医学部卒。外科診療、医用工学研究を経て、86年厚生省入省。医政局医事課長、大臣官房審議官(医政局、保険局)、健康局長で06年退官。同年、社会保険診療報酬支払基金理事、12年3月まで同特別医療顧問。診療、研究ばかりか行政の経験がある医師はめずらしい。
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