最近は宇宙旅行もずいぶん一般化して、お金に余裕があればプロの宇宙飛行士でなくても行ってくることができるような時代になりました。
しかし、この場合実際に飛行しているのは、宇宙と言っても地上数百キロまでの高度で、ジャンボジェットの高度(10㎞程度)の数十倍程度です。
それに比べると惑星探査では、月38万km、火星2億3000万km、土星15億km(光でも80分かかる)というべらぼうな距離を旅しなければなりません。しかしそれでもせいぜい太陽系の中だけの話です。
太陽系が属する天の川銀河だけでも太陽のような恒星が2000億個以上も存在するといわれており、また、このような銀河が、宇宙全体では2兆個以上も存在すると言われています。
宇宙の誕生は138億年前とされていますが、どんどん広がっており、宇宙の果てまでの距離は464億光年だそうです。夜空に見えている多くの星は、相当昔に発せられた光が地球に届いているので、大昔の星を見ているということです。
地球以外の惑星や彗星に、生命のもとになる原子であるリン(P)やその分子が見つかるなど、宇宙にある膨大な数の星の中に、地球以外にも生命が存在している(或いはしていた)ことは現在ではほぼ共通の認識になっています。そしてまた、その中に知的な生命体が存在する可能性もほぼ否定できないと思われています。(最大の根拠は、人類が地球上に宇宙人として間違いなく存在していることです。)
しかし、膨大な距離を離れて存在していれば、到達にも大変な時間がかかります。人類が今後どれだけ存続するか分かりませんが、命のあるうちにお互いに顔を合わせることはもちろん、通信することすら(電波は光速で伝わりますが)容易ではありません。つまり、事実上遭遇の可能性はほぼないとも思われます。
しかし、生命体が朽ちる事のないものを作り、宇宙空間を超高速で飛行し続ければ、そうした物体が別の生命体に感知される可能性はあり得ることになります。
そのためにはその速度をどのようにして獲得するかが問題です。現在のロケットのような仕組みや重力を利用したものでは長時間の超高速運航は不可能で、新たな工夫が必要になります。
一方、現在の地球上の技術で、これに近いものが作り得ることが分かってきています。
それはライトセイルというもので、太陽などの恒星から発する光を(薄くて軽い)帆のような構造で受けて推進力として加速していく仕組みです。また、単に物体を飛ばすだけではなく、そこで得た画像などの情報を記憶し、発信する軽量な装置(電波は光速で進みます)も必要になります。
まだ、プロトタイプが作られようとしている段階ですが、地上などからのレーザー光を帆に当てることで、実現可能なようです。
これは、ブレークスルー・スターショット計画と呼ばれており、米国の企業家などにより進められています。
そうこうしている間に、2017年10月、太陽系外から一つの小天体の飛来が確認されました。
発見された望遠鏡の設置場所に因んで、ハワイ語でオウムアムア(斥候)と名付けられたその天体の大きさは、長径約400mの葉巻型または円盤状で、太陽の近傍をかすめてあっという間に高速で飛び去ってしまいました。この飛来に気付くのがやや遅かったために、限られた期間となってしまいましたがそれなりにデータは得られました。
その結果、この飛来が通常と異なる点がいくつか判明しました。
第1はこの物体の見え方です。太陽光を反射するその物体の光り方の時間変化が、通常の隕石などとは異なり大きく変化することから、それは棍棒状か円盤状と考えられました。何れにしろ、これまでにはなかったような形状です。
第2は飛行の速度です。太陽に近づいてから遠ざかっていく際の速度は加速しており、何らかの推進力を考える必要があります。
第3は飛行の軌道で、通常の重力などから計算されるものからはわずかに逸れていました。
こうしたことから、この天体の性質について様々な議論がなされましたが、これが他の知的生命体が作ったライトセイルとすれば、うまく説明が可能だという提案が出されています。
この考えをまとめた本の邦訳「オウムアムアは地球人を見たか?」(2022年4月早川書房)も出版されました。一般向けに書かれていますが、著者のローブはSF作家ではなく、れっきとしたハーバード大学天文学の終身教授です。
先述のスターショット計画の推進者でもあり、まさに時宜を得たオウムアムアの来訪だったというわけです。
たしかに理論的には矛盾なく、無理なく説明できるようですが、唯一の問題は地球外知的生命体が作ったという点です。
私は特に違和感なくその可能性が受け入れられるのですが、多くの学者、ジャーナリズムなどは非常に懐疑的で、最近では天体衝突によって放出された窒素の氷河の破片との説が有力なようです。
それが何によるものであれ、遠ざかってしまい二度と遭遇しそうもないことから、我々には現実的な影響はないものと思われますが、世界を理解したいという人の基本的な欲求から興味は尽きませんし、我々自身の宇宙における空間的、時間的あるいはさらに高次元の位置づけを考える上で、ライトセイル仮説は示唆的で、簡単に切り捨てるのはとても残念に思います。
138億年という宇宙の歴史、2兆個の銀河の存在と生成・消滅の繰り返しの中にあることを考えれば、きっとその間にどこか別の惑星で知的生命体が誕生し文明が栄え、宇宙観測の衛星・ライトセイルを放出し、あるいは役目を終え太陽系をかすめて行ったということは考えられるのではないでしょうか。
様々な仮説や可能性は、事実に基づいて、既成観念に捕らわれることなく、謙虚に検討し続けることが大切ではないでしょうか。
地球上ではいまだに、理不尽な侵略戦争や様々な紛争が絶えません。SDGsや温暖化等の地球環境対策はどこに行ってしまったのでしょうか。
宇宙に思いをはせれば、我々が文明と言っている地球上のこの数千年間の出来事も、いかにもはかないことに思えてきます。
太陽系外から飛来の小天体「オウムアムア」は人工物? |
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【医学者の眼】ハーバード大教授が新著で「地球外文明からの探査機説」
オウムアムアの軌道=CC BY /Tomruen
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中島 正治(医師、医学博士、元厚労省局長)
1951年生。76年東大医学部卒。外科診療、医用工学研究を経て、86年厚生省入省。医政局医事課長、大臣官房審議官(医政局、保険局)、健康局長で06年退官。同年、社会保険診療報酬支払基金理事、12年3月まで同特別医療顧問。診療、研究ばかりか行政の経験がある医師はめずらしい。
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