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ゲノム解析で腸内細菌の研究も進化

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【医学者の眼】動脈硬化や心臓病への影響もわかってきた

公開日: 2021/11/22 (ソサエティ)

腸=㏄0 腸=㏄0

中島 正治 (医師、医学博士、元厚労省局長)

 快食快眠快便は健康に生きる基本です。

 最近は腸活などという言葉も流行ってきましたが、快便については、いわゆる整腸剤が医師の処方以外にも、古くからある市販薬として色々と使われてきました。その成分は善玉の腸内細菌である乳酸菌などで、各メーカーで研究した菌種や添加物を使っています。

 整腸剤という名前を含め、何となく良さそうではありますが、その作用はやや漠然としていて、今一つ説得力に欠けるという印象もありました。

 胃腸が弱くよく下痢をしていた私は、何年か前の中国旅行の際に、好奇心からとても臭いの強い「臭豆腐」を初めて食べてみました。尾籠な話で恐縮ですが、下痢や嘔吐などはありませんでしたが、その後、便がとても臭くなり、これは臭豆腐の発酵菌が私の腸に定着してしまった可能性があると考え、何とかしようと整腸剤を色々試してみました。

 何か月かかかりましたがようやく元に戻り、その後の便通はかえって良くなったような気がします。

 近年、食物の消化吸収以外にも腸と腸内細菌の役割についての解明が進んでいます。

 はじめは主に肥満や糖尿病などの分野で注目されましたが、さらに免疫学的な面から、また、個別の意外な疾患との関係の解明も進んでいます。

 ここでは、最近明らかになったいくつかの疾病との関係を紹介します。

 膠原病・リウマチ疾患では、特定の腸内細菌(プレボテラ・コプリ)の増加が、免疫細胞の誘導等を介して関節炎の発症と重症化に関係していると考えられています。

 多発性硬化症は感覚の異常や視覚障害、運動や歩行の障害などをきたす神経難病で、髄鞘という神経の鞘(さや)を標的とする自己免疫疾患です。(腸管上皮のエネルギー源となり、免疫制御にも関与する)短鎖脂肪酸を産生する菌の減少が見られ、酸化ストレスの亢進と共に、免疫系の調整に障害をもたらしていることが推測されています。

 慢性腎臓病ではアンモニアや尿毒素を産生する菌が増加し、短鎖脂肪酸を産生する菌(ラクトバチルス)が減少していることが分かりました。その結果、腸管の防御機能が低下し、毒素が腎機能を低下させると考えられています。

 循環器疾患については、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患では、増加している腸内細菌と減少している菌が特定されました。そして、動脈硬化マウスで、減少している菌を経口投与すると動脈硬化が抑制されました。この菌により、悪玉菌が作る毒素(リポポリサッカライド)の活性が低下し、動脈硬化を起こす慢性炎症が抑制されたためと考えられています。

 また、腸内細菌が産生に関与する化学物質(トリメチルアミン-N-オキシド:TMAO)が動脈硬化や心臓病を起こす作用があることが分かり、動物実験では抗生物質で腸内細菌を除菌すると動脈硬化が抑えられました。

 以前は、便中の細菌を分離培養し同定して研究していましたが、膨大な手間がかかり、空気に触れると培養できない細菌も多く、全体の20%程度しか菌種が分かりませんでした。しかし、近年サンプル中のゲノムDNAを全て読み出し、遺伝子配列からその微生物を探索する方法が可能になりました。(メタゲノム解析) また、ゲノム解析からその遺伝子の機能の分析も可能になったほか、腸管免疫機構の解明が進み、便移植などの研究や治療方法の進歩も見られています。

 腸内細菌は善玉菌、悪玉菌、日和見菌などと分類されますが、いわゆる悪玉菌の中にはたんぱく質を分解等して発癌物質を産生するものもあります。一方、善玉菌とされる乳酸菌は炭水化物を分解して乳酸を作りますが、困ったことに乳酸はがんの増殖を促進するという事も分かってきており、事はそう簡単ではないようです。

 また、乳酸菌などの整腸剤でがんが予防できるかという点については、これまでの研究では残念ながらその効果は確認されていません。

 腸内細菌と大腸がんの関係については、胃がんの原因となるピロリ菌のようなものはまだ見つかっていませんが、様々な研究が進んでいるようです。

 1000種類、100兆個とも言われる細菌同士あるいは人体との相互作用ですから、事はそう簡単ではないのかもしれません。

 これら疾病の他にも、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、パーキンソン病、うつ病・自閉症などでも腸内細菌叢との関連が報告されています。

 現在はまだ、ゲノム研究など新たな手法での研究が始まったばかりとも言えますし、腸内細菌叢との関係も、どちらが原因でどちらが結果か、あるいは疾病に至る道筋は必ずしも明らかでないものも多いので、一層の研究が望まれます。

 今後、腸内細菌やその代謝物を介した新たな治療法、予防・健康増進法の研究開発が期待されます。そして、将来は個々人の腸内細菌叢の違いに応じた対応も考えられます。
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中島 正治(医師、医学博士、元厚労省局長)
1951年生。76年東大医学部卒。外科診療、医用工学研究を経て、86年厚生省入省。医政局医事課長、大臣官房審議官(医政局、保険局)、健康局長で06年退官。同年、社会保険診療報酬支払基金理事、12年3月まで同特別医療顧問。診療、研究ばかりか行政の経験がある医師はめずらしい。
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