新型コロナウイルスの流行は当面の峠を越えた感があります。しかし、これから冬にかけてインフルエンザ(以下インフル)の流行シーズンになります。
コロナとインフルが同時に流行する恐れがあり、外来患者数の急増や両者の鑑別診断の必要性、重症患者に対するベッドの確保など医療現場などでの混乱が予想されます。
今季はインフルエンザワクチンの早期接種に向けて確保が進められており、既に例年を大きく上回る6300万人分を確保したとされています。
最近の米国医師会雑誌(JAMA online 2020.8.20)に「コロナウイルス感染症がインフルシーズンと重なったら何が起こるか」と題する論評が掲載されました。これを参考にインフル対策、特に予防接種について考えてみたいと思います。
まず、インフルとコロナは臨床的に鑑別できるのかですが、発熱、咳や呼吸困難など症状が似ており、区別できません。区別するためには両方の検査をする必要があります。
治療法については、残念ながら両者で大きく異なり、インフルに有効な抗ウイルス薬はコロナには効かず、コロナの重症化治療で用いられるステロイドなどはインフルでは悪化を促進してしまう可能性があります。
では、インフルとコロナの同時感染はあるのか。データが十分とは言えませんが、、これまでにも報告されており、可能性はあります。しかし、その頻度は幸い多くはありません。
ただ、特に高齢者などでははるかに重症化し易いようで 注意が必要です。
インフル予防接種を行った地域では、コロナの重症化や死亡の抑制効果が見られるという報告もあります。
実は、この内容は非査読論文ですが既にいくつか出されていて、交絡因子★を除いてその効果が見られたという結果になっています。ただその理由については今後の検討が必要ですが、インフルによる心臓など他の合併症による影響の軽減の効果も考えられるとの見方もあります。
そもそも今度のインフルはどの程度流行するのかという問題は、ワクチンの当たりはずれとも関係して、予測が難しいのです。いま、まさに冬の南半球では、本来ならインフル流行シーズンですが、驚くほど発生が少ないことが報告されています。
理由の詳細は分かりませんが、手洗い、マスク、ソーシャルディスタンスなどが効いている可能性もあります。
しかし、南半球で流行しなかったから日本でも流行しないとも言えず、今後への警戒は緩めるわけにはいきません。
結論としては、何らかのメカニズムでのコロナ重症化への予防効果にも期待し、医療機関での混乱を緩和する意味でも、特に高齢者にはインフルの予防接種はお勧めしたいと思います。
インフル予防接種はコロナ重症化を抑制か |
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【医学者の眼】南半球ではインフル流行せず、手洗いなどコロナ効果とも
公開日:
(ソサエティ)
予防接種を受けるオバマ大統領(当時)=Reuters
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中島 正治(医師、医学博士、元厚労省局長)
1951年生。76年東大医学部卒。外科診療、医用工学研究を経て、86年厚生省入省。医政局医事課長、大臣官房審議官(医政局、保険局)、健康局長で06年退官。同年、社会保険診療報酬支払基金理事、12年3月まで同特別医療顧問。診療、研究ばかりか行政の経験がある医師はめずらしい。
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