一方、生理学・医学賞の方は、大方の予想が新型コロナウイルス・ワクチンの開発に貢献したカタリナ・カリコさん他だったのに対して、熱や痛みの感覚器官(レセプター)に関する発見で米国のアーデム・パタプディアン氏とデヴィッド・ジュリアス氏が受賞しました。
予想を裏切られたためかどうかは分かりませんが、生理学・医学賞のマスコミ報道はとても地味で、まだよく知らない方が多いのではないでしょうか。
コロナのmRNAワクチンについては、ノーベル委員会はこの手法ががんなど他の医薬の創出にも応用可能なものかどうか、うまく行くようなら医療上での大変革となると思われますので慎重に見ているのではないかと思われます。
私が奇異に感じたのは、その報道内容です。多くのニュースでは、温度や触覚の受容体(センサー)の発見が、受賞の対象となったなどと書かれているものが見られます。
私自身も我が国の報道を見て、温痛覚等のセンサーの発見がなぜ今ごろノーベル賞なのかと疑問に思いました。私が医学生であった50年近く前でも、既に皮膚等に温痛覚や触覚の受容体(レセプター)があることは、教科書にも書かれていました。
したがって、これは報道が正確でないか、分かり易くし過ぎて大事なところが抜け落ちてしまっているのではないかと思いました。
そこで、ノーベル賞について、当然一番正確に伝えているノーベル財団のホームぺージをみてみました。そこでは授賞理由について、以下のように記されています。
既に皮膚などに触覚や温度などのセンサーが存在して、それらの刺激が神経を通じて脳に行き、感じることは分かっていましたが、どのようなメカニズムでそれらの刺激が細胞において電気信号になるのかは分かっていませんでした。

温度と痛みはTRPV1、触覚と固有受容感覚(筋肉や関節等の状態)はPIEZO2それぞれのイオンチャンネルの開閉で刺激が電気信号に繋がります
黄色の部分がチャンネル蛋白で、その隙間をイオンが通ります
*図はノーベル財団HPから
これによって、人体が外界・外的刺激をどのように受け止めているかが明らかになったわけですが、この発見は痛みの制御や血圧や呼吸などの生理学的な調節、制御にも関わることから、このチャンネルに影響を及ぼすような新たな治療薬の創出などの医療上の伸展も期待されるとしています。
こうした医学の進歩に基づく、イオンチャンネルや詳細な分子制御を目的とした治療薬は、近年次々に開発されてきていますが、今回の受賞に関連していえば、私個人としては日夜悩まされている過活動膀胱(膀胱の圧力センサーの異常ではないかと私は考えています)の良い薬をぜひ早く作ってほしいと思っています。