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【医療の裏側】コロナ第三波と『コロナ黙示録』(海堂尊著)

公開日: 2020/11/30 (ソサエティ)

【医療の裏側】コロナ第三波と『コロナ黙示録』(海堂尊著)

山岡淳一郎 (作家)

 新型コロナウイルス感染症の第三波が襲来した。北海道、大阪府、そして首都圏で医療崩壊の危機感が高まっている。大阪府の重症病床使用率は50%に達した(11月24日現在)。七月半ばには1000人以下だったコロナによる死亡者は2000人を突破した。

 政府はGoToキャンペーンを見直したものの、感染を抑え込む効果的な手を打てていない。現場の医療者や保健所、行政担当者らが懸命にコロナとたたかっているのは間違いない。

 しかし、人口100万人当たりの死亡者数をみると、台湾0.29人、中国3.3人、シンガポール4.8人、韓国9.9人、日本は15.7人。ともに「交差免疫」で重症化が抑えられているといわれるアジア諸国で、なぜ日本は感染制御に手を焼いているのか。あらためていうまでもないだろう。「政治」が機能していないからだ。

 そのことにさまざまな報道よりも本質を突いて気づかせてくれる小説がある。作家・海堂尊氏の『コロナ黙示録』(宝島社)である。海堂氏といえば、病理医として勤務する傍ら初めて書いた『チーム・バチスタの栄光』が「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、作家デビューしたことで知られる。

 通称「愚痴外来」に勤める昼行燈の医師と、厚生労働省の切れ者官僚が織りなす物語は映画化・ドラマ化され、数多くの読者を獲得している。

 海堂氏の作品のなかでは『ナニワ・モンスター』(新潮文庫)が2009年の新型インフルエンザ流行を下敷きにしていた。パンデミックを背景に「医療と司法の対立」が描かれている。一方、本書は「官邸」「政策集団」「大学病院」そして「クルーズ船」などを舞台に強烈な社会風刺とユーモア、医療の倫理が交錯する。振幅の大きな物語だ。

 官邸の登場人物には、安保宰三(あぼ・さいぞう)首相と明菜夫妻、酸ケ湯(すがゆ)官房長官、今川、泉谷の両首相補佐官、本田苗子(ほんだ・みつこ)厚労省大臣官房審議官……と思わず頬が緩みそうな名前の個性的なキャラクターが並ぶ。

 とんちんかんなコロナ対策を批判された宰三は私邸に帰ると、明菜の腕のなかで泣き濡れる。明菜は、幼子をあやす母のように「とんとん」と宰三の背中をたたく。じつは明菜は宰三の陰の政治指南役だった。国民は一億人以上もいてみんな望みばかり大きくてわがままだ。だからどこかで線を引かなくてはならない。

 「それならわたしたちと、わたしたちのお友だちが幸せになるようなことだけ考えていればいいと思わない? そうすればサイちゃんもわたしも幸せになるわ」

 これが女帝、明菜の価値観なのである。うーん、と思わずうなった。首相夫妻は「なかよし会」しか眼中にないから周りはそれに引きずられ、フェイクまみれの政策が選ばれる。五輪を仲間内のレガシーにしたい宰三は、泉谷補佐官と不倫相手の本田審議官を呼びつけ、「コロナをこれ以上増やすな」と申しつける。本田審議官は、日本にコロナがいないか、少ないことをアピールできればいい、それこそが首相の願いだと見抜く。

 「それなら検査対象を限定すればいいんだわ」

 と判断し、マンパワーもなく、上からの命令には愚鈍なほど忠実な保健所に検査の判断の全権を委ねる。大多数の軽症者は感染者と認識されず、日本の感染者数は低く見積もられていく、というわけだ。海堂氏の現実の向こうを「透視」する力に舌を巻く。

 さらに医療現場のリアルな描写が読者の心を揺さぶる。

 クルーズ船で感染したおばあちゃんと、病院内で感染した若い男性医師の二人が大学病院に収容され、ともに重症化した。救命に欠かせない「エクモ(人工心肺装置)」は病院に一台しかない。どちらにエクモを適用するか。究極の「いのちの選別」が医療者たちに突きつけられる。冷徹な感染症医は、男性医師に使うのが当然だと言い張る。が、しかし……。

 ここから先はネタバレになるので控える。ともかく、風刺や諧謔の衣をまといつつも、医療とは何か、医師の倫理とは何か、と根源的な問いが立ち現れる。海堂作品の普遍的魅力は、そこにある。
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山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。『ドキュメント 感染症利権』(ちくま新書)、『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』(岩波書店)刊行。
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