先日、英国で開かれたG7サミット(先進七か国首脳会談)は、ワクチンの開発と途上国を含む全世界への供給がメインテーマだった。
6月14日現在、日本以外の6か国の1回以上の接種率は44~64%。日本は12%少々。菅義偉首相は、さぞかし肩身が狭かっただろう。
菅首相は、「7月末までに希望する高齢者全員の接種」「1日に100万回」を掲げて閣僚や、実施主体の自治体を鼓舞している。が、6月に入っても1日40万回~65万回の間を上がったり、下がったり(首相官邸データ)。思うように回数は伸びていない。
ワクチン接種は、インド変異株の感染拡大との競争だ。ワクチン接種の加速化は国民共通の願いだろう。
ところが、ここにきて気になる数字が公表された。
6月9日に開かれた「第61回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」で、ファイザーのメッセンジャーRNAワクチン「コミナテイ」筋肉注射による副反応疑い事例が報告された。
報告によるとワクチン接種が始まった2月17日から5月30日までの間に1305万9159回の接種が行われ、生命にかかわりうる重いアレルギー反応「アナフィラキシー」疑い例は1157件。このうち国際基準の「ブライトン分類」でアナフィキシーとして確定された症例は169例にとどまる。この少なさに医師の間から疑問の声が上がっている。
ブライトン分類とはアナフィラキシーの症例定義の基準で、皮膚・粘膜、循環器、呼吸器、消化器などのメジャー症状とマイナー症状の現れ方によって、レベル1から5に分かれている。分類のレベル1~3がアナフィラキシーの診断確定、レベル4は「十分な情報が得られておらず、症例定義に合致すると判断できない」、レベル5「アナフィラキシーではない」とされる。1157件の疑いのうち大半の965件がレベル4だ。
つまり、大多数が「情報不足で判断できない」カテゴリーに入れられている。この状況に現場の医師たちは首を傾げる。小児がん治療の権威で、ワクチンに詳しい名古屋大学名誉教授・小島勢二氏は、こう述べる。
「ブライトン分類のレベル1~3では、皮膚、呼吸器、循環器、消化管の4つの臓器のうち、2つの臓器にまたがる症状が必須とされています。レベル4は呼吸器症状の記載のみで蕁麻疹などの皮膚症状を欠いているのでレベル4とされるのですが、アナフィラキシーを否定しているわけではない。それに1臓器のみのアナフィラキシーがあることは教科書的な知識ですし、報告者が見落とし、もしくは記載しなかった可能性もある。初期の180症例の概要が医療機関から厚生労働省に報告され、同省のHPに掲載されていたので目を通してみました。次のような症例がレベル4に入れられているので驚きました」
ここからは、小島氏が示したレベル4症例の概要をそのまま引用する。専門用語が混じっているが、ご容赦ねがいたい。
■29歳の女性
午後2時半頃ワクチン接種し、午後3時半頃から微熱が出現。午後5時頃に倦怠感が強くなり、午後5時半頃に呼吸困難、咳嗽が出現し、院内救急要請となった。
救急外来到着時、皮膚症状は全く認めなかったが、呼吸困難、血圧低下を認めた。2年前にもタケノコでアナフィラキシーを起こした既往もあり(その際は、呼吸器症状、皮膚症状、消化器症状)、今回は、皮膚症状は認めないが、アレルゲンとなりうる物質の接触後に2系統の臓器症状のため、アナフィラキシーと診断した。アドレナリン筋注後も血圧が一時的に低下することもあり、経過観察目的に入院した。
■29歳の女性
コミナティ筋注後5分後に鼻汁、咳そうが出現、みるみる呼吸困難となり気道狭窄等が著明となり、ボスミン筋注計4回、ステロイド、抗ヒスタミン薬などの薬物治療を行い、リカバー。その後、経過観察目的で入院となる。
■47歳の女性
令和3年2月25日ワクチン接種(1回目接種)。令和3年3月18日午後2時20分問診しワクチン接種(2回目接種)。午後2時28分歩行不安定、意識障害GCS(E1V5M5)、全身痙攣認め処置開始。
午後2時30分点滴開始(全開)し、アドレナリン0.5mL0.5A筋注、BP:131/97mmHg、HR:130、SpO2:100%。頸部周囲・顔面の発赤疹認め、末梢冷汗著明。午後2時32分ポララミン1A静注。午後2時35分BP:131/97mmHg、HR:120台。午後2時41分顔面紅潮・発赤認め、開眼不可、SpO2:100%、HR:104。午後2時46分アドレナリン0.5mL0.5A筋注、GCS(E4V5M6)。午後2時50分ERへ移動、開眼可、意識レベル回復、本日入院となる。
「このような症例をアナフィラキシーと確定しなくて、何をアナフィラキシーと呼べばいいのでしょうか。副反応検討部会の報告例のレベル1~3群と、レベル4群の間に臨床的な特徴に差はありません。医師がアナフィラキシーと思ったら躊躇せず、アドレナリン筋注をすることが重要です。副反応が深刻でも、ベネフィットが認められれば接種を進めることに異論はありません。私は反ワクチン派ではありませんが、正確な情報を国民にしらせるべきだと思います」と臨床医。
厚労省は、副反応の症例の多くを「情報不足で判断できない」という曖昧なカテゴリーに入れ、その程度を少なく見せようとしているのではないだろうか。
私が抱いた疑念は、6月9日の副反応部会の資料「接種後の死亡として報告された事例の概要」を読んで、一層深まった。
接種開始の2月17日から6月4日までに接種後の死亡が196例報告されている。死亡日は接種したその日から翌日、数日後に集中しており、遅くとも4週間後以内に収まる。
世代的には高齢者が多いが、20代~50代、60代前半の働き盛りの男女も含まれる。目を疑ったのは、5月30日までに死亡した139例を対象に専門家がワクチン接種と死亡の因果関係を評価しているのだが、そのすべてを「情報不足等によりワクチンと症状名との因果関係が評価できないもの」としていることだ。
ワクチン接種した当日に亡くなった人を含めて、すべて「因果関係が評価できない」としている。この事実は、予防接種につきものの副反応による被害と救済のしくみを歪めかねない危険をはらんでいる。詳しくは、次回のコラムでレポートしたい(つづく)。
ワクチンの重い副反応を「判断不能」に分類? |
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【医療の裏側】ワクチンのアナフィラキシー診断に偏向の疑念
CC BY /wuestenigel(cropped)
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山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。『ドキュメント 感染症利権』(ちくま新書)、『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』(岩波書店)刊行。
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