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感染抑制の決定打「飲み薬」に、処方の壁

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【医療の裏側】公式機関で検査しないともらえない、薬局にも不安

公開日: 2021/11/17 (ソサエティ)

モルヌピラビル=PD モルヌピラビル=PD

山岡淳一郎 (作家)

 新型コロナ感染症のパンデミックを抑える「ゲームチェンジャー」がいよいよ登場しそうだ。無症状~軽症者向けの「飲み薬」が年内にも承認、実用化される見込みがある。

 11月10日夜、後藤厚生労働大臣は、軽症者向けの飲み薬「モルヌピラビル」を開発する製薬大手「メルク」の日本法人「MSD」との間で、薬事承認されることを前提に160万回分を確保したと発表した。12日の会見で、「承認されれば、年内に20万回分、年度内に約40万回分を医療現場にお届けをいたします」と後藤厚相は語った。

 新型コロナ経口薬の国際的な開発競争でメルクは先陣を切っている。同社は治験(臨床試験)のなかで「発症から5日以内」の患者で重症化リスクのある760人余りを、モルヌピラビルを投与する集団と、プラセボ(偽薬)を投与する集団に分け、経過を比較した。

 その結果、入院した人や死亡した人の割合は、プラセボ投与グループで14・1%、薬を投与したグループでは7・3%だったので、入院や死亡のリスクが約50%低下したとする。メルクは10月11日にモルヌピラビルの緊急使用許可を米国FDA(食品医薬品局)に申請。米国での緊急使用については、11月30日の諮問委員会での「公開討論」で決まるが、一足早く、英国の規制当局は、11月4日にモルヌピラビルを承認した。

 メッセンジャーRNAワクチンの実用化で一番乗りを果たしたファイザーも、飲み薬の開発を急ピッチで進めている。治験では「発症から3日以内」の重症化リスクのある患者770人余りを薬投与グループと、プラセボ投与グループに分けて経過観察。入院または死亡した人は、プラセボのグループでは385人中27人、薬投与グループで389人中3人となり、入院や死亡のリスクは89%低下したと発表している。

 日本では塩野義製薬が、経口薬の開発に注力しており、現時点で感染者が多いシンガポールや韓国、イギリスなど、海外でも最終の臨床試験を行っている。新型コロナウイルスの治療に詳しい愛知医科大・森島恒雄客員教授は、「この夏の感染拡大の第5波では感染者が入院できず、自宅待機を余儀なくされる中で、重症化したり死亡したりするケースもまれではなかった。飲み薬があれば自宅待機しながら治療でき、重症患者の治療を行う医療現場などでの負担を大きく減らすことができる」(NHK首都圏ナビ 10月7日配信)と語っている。

 飲み薬は、まさにコロナ禍のゲームチェンジャーといえるだろう。

 ただし、実際に大量の経口薬が確保できたとしても、それが的確に、迅速に使えるかとなると、「しくみの壁」が立ちふさがる。メルクやファイザーの治験で明らかなように、いずれの飲み薬も「発症から5日以内」「発症から3日以内」と、効果が期待できるのは発症直後に限られている。発症間もなく陽性と判定され、すぐさま医師の診断で薬が服用されなくては効果が薄れてしまうのだ。

 まず、感染の有無を判断するPCR検査が迅速に行われなくてはならない。

 ところが、どの医療機関でもすぐにPCR検査(行政検査)が可能なわけではない。体調に異変を感じた人は「かかりつけ医」に電話で相談、もしくは都道府県の発熱相談センターなどに連絡をする。そして「発熱外来」のある診療所などを紹介される。そこに出向いて検体を採取してもらい、早くて翌日、感染拡大中は何日もかかって結果がわかる。医師の診断を伴わない自費のPCR検査や、薬局で売っている抗原検査キットは正式な検査として認められず、指定の行政検査を受け直さなくてはならない。

 現在、全国に発熱外来クリニックなど、行政検査が可能な医療機関は約3万4000か所あるという。感染の不安を感じた人は、ここにできるだけ早く、かかる必要がある。何度も感染爆発が起きた東京都は、長い間、患者の殺到や医療機関の風評被害を懸念して、発熱外来を設けた医療機関名を伏せていた。9月半ば、都は、ようやく公表の同意を得た発熱外来クリニックなどの名前、住所、電話番号をHPで公開した。

 これで、コロナに「かかったかな」と思ったら、直接、発熱外来クリニックに電話して、予約をとればPCR検査を受けられるようになったわけだが、一般にはまだ周知されていない。新宿区のようにHPで区内約60ヶ所の「発熱外来対応医療機関リスト」を公表している自治体もあれば、中野区のように相変わらず、「かかりつけ医」と「相談センター」に「ご連絡ください」とHPに載せている区もある。自治体によってバラバラなのだ。発熱外来のある医療機関にアクセスするよう、もっと周知したほうがいいだろう。

 さらに、現行のしくみでは、PCR検査で陽性が判明後、飲み薬を受け取るのにも時間がかかる。検体を解析した検査機関から発熱外来クリニックに陽性の知らせが届くと、クリニックから保健所に患者の発生届が出される。これを受けて保健所は、患者に自宅療養、宿泊療養、入院などの連絡をする。この段階で、自宅や、宿泊療養先のホテルですぐに飲み薬を服用できなくては、あっという間に数日が経過し、手遅れになってしまう。

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 当然、地域の診療所の医師による訪問診療が期待されるが、医師会はコロナ患者にかかわるのに消極的だ。拙著『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』にも記したが、大阪府医師会に所属する開業医は、自宅待機中のコロナ患者への往診をためらう理由をこう語った。

 「コロナ患者を診たことがないから不安ですよ。一応、診察のガイドラインはあるけれど、ちゃんと経験者にレクチャーを受けて肌感覚で理解できないと手が出せません。もしも往診した患者さんが悪化したら、どの病院がバックアップしてくれますか。見通しも立たないのに診るのは無理です」

 厚労省は、コロナ患者用の飲み薬のデリバリーを調剤薬局に託そうとしている。11月9日、厚労省は飲み薬の調剤に対応可能な薬局を地域で把握するよう自治体に通知した。患者の処方箋を医療機関から受け取り、オンラインや電話で患者に服薬指導を行い、薬を配送できる薬局をリストアップして、26日までに提出するよう求めたのだ。

 さて、機動的に動ける薬局はどのぐらいあるのだろうか。経口薬は、ワクチン接種と相まってコロナ治療をインフルエンザ並みの対応に変えられる可能性を秘める。それを実行できるかどうかは、地域の診療所の技量と覚悟にかかっているような気がしてならない。
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山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。『ドキュメント 感染症利権』(ちくま新書)、『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』(岩波書店)刊行。
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