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自治体対応でコロナ対策に「明と暗」、和歌山県、墨田区の成功

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【医療の裏側】墨田区、回復期患者を地域病院に回しベッド空ける

公開日: 2021/03/11 (ソサエティ)

写真AC 写真AC

山岡淳一郎 (作家)

 首都圏の一都三県は、新型コロナの感染動向の先が読めないまま、緊急事態宣言を2週間延長した。1日の新規感染者数は下げ止まり、死亡者数はなかなか減らない。すでに累計の死亡者数は8000人をこえた。

 全体状況はまったく楽観視できないが、さすがに国内でクラスターが発生して1年以上が経ち、対策の勘所も見えてきた。菅義偉首相は、首都圏の緊急事態宣言の2週間延長を発表した3月5日の記者会見で、飲食店の時間短縮、不要不急の外出の自粛やテレワークの徹底といった毎度おなじみのメニューの他に、ようやく高齢者施設など3万か所のPCR検査や、市中感染を察知するための無症状者のモニタリング調査の規模拡大を明言した。多くの人が待ち望んでいた一手である。

 また、コロナとの長いたたかいを経て、都道府県や基礎自治体で対策の明暗もはっきりしてきた。「暗」の部類では昨年11月に発生した北海道旭川市の病院内感染からの大規模クラスターの連鎖があげられよう。人口33万人の旭川市には500病床規模以上の公的病院が4つ(医科大病院、厚生病院、赤十字病院、市立病院)と国立病院機構の医療センターがあり、地方では珍しく重厚な医療体制が敷かれている。

 ふつうに考えれば、仮に院内感染が起きても感染者を保護隔離し、病院間で支え合えば長期化は回避されそうだが、旭川では最初に感染者が見つかった民間の吉田病院が孤立し、感染蔓延。厚生病院でも集団感染が起きた。2021年1月下旬にクラスター終息の判断が下されるまでに両院合わせて500人以上の感染者が出て、70人以上が亡くなっている。

 背景には旭川市と北海道の連携の悪さなどがあった。国の対策班や自衛隊の看護師たちが旭川に派遣されて事態が鎮静化するまで時間がかかり、結果的に被害が拡大した。院内・施設内クラスターの制御は、消火活動に似ている。火事は早い段階で消そうとすれば延焼や類焼を防げるが、初動が遅れると燃え広がって手がつけられなくなる。その見本だった。

 一方、昨年2月半ば、国内で初めて院内クラスター(済生会有田病院)が出た和歌山県は、仁坂吉伸知事と野尻孝子技監ら迅速に動き、ボヤで消し止めた。「明」の対応を特徴づけたのはPCR検査の大量実施と、行動履歴の徹底調査、一般の診療所での肺炎患者の拾い出しなどだ。検査キャパが大幅に不足する状況で、仁坂知事が大阪府に大量の検体の検査を依頼するなどして乗り切っている。

 有田病院の患者や職員だけでなく、出入りの業者、警備員、非常勤医師らを含む関係者全員の検査は「やりすぎ」との指摘も受けたが、仁坂知事は地域の安心、安全を取り戻し、病院を早く復活させるには不可欠と考えて断行する。知事の手足となって動いたのは保健所だ。以前、仁坂知事は、私の取材にこう答えた。

 「保健所の精鋭部隊はとても重要な役割を負っています。動きやすくするのは知事の責務。感染症にかかわる法的権限を突きつめれば、保健所の親分は都道府県知事なんです。論理的に考えて全員検査が必要なので私がやると決めた。初めから国の基準なんか問題にしていません。親分の知事が決めなければ保健所は動けないんです」

 和歌山県は、院内感染の発覚からわずか3週間で958人のPCR検査を行い、有田病院関連では初期の患者を含めて11人、それ以外に3人の陽性が判明。別の病院に搬送された1人が亡くなったが、3月初旬には「安全宣言」が出された。

 大量検査と保健所機能の強化は、院内・施設内クラスター対策の基本中の基本であろう。

 なかなか感染が収まらない東京23区のなかでも、じつは明と暗が分かれつつある。第3波で医療崩壊状態だった今年1月中旬には、感染しながら入院先やホテル療養先がなく、自宅待機を強いられる都民が8000人ちかくに膨張した。3月8日時点で自宅待機者は大幅に減ったが、それでも285人いる。日本一の繁華街、歌舞伎町を抱える新宿や、若者で賑う渋谷区、港区などは感染がしぶとく残り続けている。

 これに対して、「明」は墨田区だ。人口27万人の墨田区は、1月28日、都全体で4810人もの自宅待機者がいたなかで、早々と待機者を解消し、ゼロを維持する。墨田区の医療体制がとくに優れているわけではない。

 感染症指定病院で重症者を引き受ける都立墨東病院( 765床)という大黒柱はあるものの、その他は同愛記念病院(403床)と、200床以下の小さな病院がいくつか。大学病院もなく、医療資源はむしろ乏しい。一時、墨田区でも待機者が30人をこえた。それなのになぜ、いち早く、自宅待機者ゼロが実現できたのか。

 カギは「下り」搬送にある。病床の確保については、とかく重症・中等症の患者を大病院に送る「上り」の議論ばかり沸騰しがちだが、重要なのは治療を終えて回復期にある患者を地域の病院に転院させる「下り」搬送だ。西塚至・墨田区保健所長は、次のように語る。

 「昨夏から毎週、区内全10病院と医師会、行政のウェブ会議を開いてきました。そのなかで患者さんを多く抱える墨東病院から入院期間が中等症で2週間以上、重症では4週間、高齢者が増えてさらに期間が延びて個室が空かない、長期入院で体力が落ちた人のリハビリに苦労しているという実情が伝わってきました」

 「回復期の方が退院できず、留まっていた。そこで『下り』が大切だと考え、12月に入って、地域の7つの病院に回復期の方を受けてほしいとお願いしたのです。地域の病院はリハビリが得意です。これまでも墨東の3次救急の裏方として後方支援をしてきたので、同じようにコロナでも、と呼びかけました」

 あらためて言うまでもないが、結局は、コロナ対策もガバナンスの問題なのだ。都道府県と中核市、それぞれの保健所との間でカバナンスが効いていれば、医療の危機にも迅速に対応できる。行政の縄張り意識や、タテ割りの官僚主義が感染を蔓延させるのである。
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山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。『ドキュメント 感染症利権』(ちくま新書)、『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』(岩波書店)刊行。
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