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都内病院 患者選別のトリアージ寸前

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【医療の裏側】空いてるICU 受け入れ情報ネット共有の沖縄方式で見つけて

公開日: 2021/01/06 (政治, ソサエティ)

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山岡淳一郎 (作家)

 もうすぐ首都圏の一都三県に「緊急事態宣言」が再発出される。あらためて言うまでもないが、緊急事態宣言を出す最大の目的は医療崩壊を防ぐためだ。

 東京都の現状をみると、医療崩壊はすでに起きている感がある。1月5日19時30分現在、新型コロナ感染症での入院患者数は3025人で、コロナ用に確保している3500床の86%が埋まっている。

 加えて「入院・療養等調整中」つまり症状が出ている人を含めて受け皿が見つからない感染者が3083人。入院者数とほぼ同数の待機組がおり、急速に症状が悪化する人が出てきそうだ。都内の保健所と、都の入院調整本部はパンク状態といえるだろう。

 何が何でも緊急事態宣言で感染者を減らさなければ、医療現場がもたない。そういう状況に追い込まれている。

 そして、「生命の砦」としての医療機関を守るうえでカギを握るのが、人工呼吸器やエクモ(体外式膜型人工肺)での治療が必要な重症者の数だ。現時点で111人。都が確保しているICU(集中治療室)は220床なので、半分余っていると思うかもしれないが、コロナ治療でICUにかかわる医師、看護師、臨床工学技士らのマンパワーはほぼ限界にきている。

 というのは、通常の手術後管理などでICUを使う場合、患者2人を1人の看護師が担当するが、コロナの重症治療では1対1以上、つまり2倍以上の看護師配置が必要になってくるからだ。重症者を引き受けている病院のほとんどが予定していた手術を遅らせ、診療科をまたいで医師、看護師を集めてICUを維持している。

 ベッドが余っているようでも、マンパワーに余裕がない。このままいくと、どの患者の治療を優先するかという「命の選択(トリアージ)」を余儀なくされる。トリアージは医療者に大きな精神的打撃を与えてしまう。

 一刻も早く、医療提供体制を再整備しなくてはならない。緊急事態宣言の再発出は、医療の受け皿、とくに重症治療の「ヒト・ハコ・モノ」の確保という面でも重要な意味を持っている。臨時の医療施設の立ち上げも必要になってくるだろう。

 ところが、病院間でのICU病床の調整はなかなか進まないである。重症治療は主に大学病院や基幹病院など高度な医療を提供できる施設が担っているが、患者が適正に割り振られず、特定の病院に集中している傾向が強い。

 東京都で重症者を多く引き受けているのは、東京医科歯科大学病院、昭和大学病院、東京女子医科大学東医療センター、都立広尾病院、都立墨東病院、都立多摩総合医療センター、日赤医療センター、虎ノ門病院などだ。

 一方、感染症指定病院でも重症者を受け入れていない(能力的に難しい)ところもあれば、約30床以上のICUを有しながら受け入れ患者がゼロ、あるいは1人、2人という病院もある。

 なぜ、このような重症患者の「偏在」が生じるのか。

 首都圏の大学病院の集中治療医は、こう語る。

 「経営面を考えてコロナ患者をとらないところがあります。とくに民間病院は、厚生労働省の地域医療構想の推進で急性期病床が削減され、診療報酬の改定で余力がない。しかもコロナ流行後、病院での感染を恐れて患者さんの受診が減っている。室料を高く設定している個室をコロナ専用に変えたりするのは難しい。経営破綻しては元も子もないですからね」

 日本病院協会などの「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査 (2020年度第2四半期)」によると2020年7月末にコロナ患者を受け入れた病院の59.5%が「赤字」と回答している。前年同月比より25%も増えている。

 受け入れていない病院でも51.5%が赤字と答えており、前年同月比から12%増だ。患者の受診抑制に加え、マスク、手洗いの励行でコロナ以外の感染症が減って外来患者も少なくなっている。経営が悪化したところにコロナ患者を受け入れて崖から転げ落ちてはたまらないという意識が働く。

 これに対し、厚労省健康局結核感染症課は、札束で頬を叩くような通知を出した。病床逼迫の申し出が認められた都道府県で、2020年12月25日から21年2月28日までの間にコロナ受け入れ病床に割り当てられた場合、重症病床なら1床=1500万円、中・軽症病床など1床=450万円、PCR検査の判定を待つ疑い患者の病床にも1床=450万円を補助すると通知したのだ。

 大盤振る舞いで状況は好転するだろうか。集中治療医は言う。

 「もちろん財政的な支援はあったほうがいい。いままで手を挙げていなかった病院も、患者を取るようになるかもしれない。でも、コロナの重症患者を受けてきた現場感覚からすると、周りが見えない、先が読めない苦しさのほうが大きい」

 「それを回避するには、まず都道府県内のどの病院がどれだけの患者を引き受けているか、リアルタイムで情報共有すればいいんです。いま、どこは満杯で、どこに余裕があるか、次はどこが空きそうか、そういう情報が共有されてこそ、患者の搬送調整もスムーズになる。この情報の透明化を阻んでいるのは病院トップや行政の保守的な意識です。ここが変わらなきゃ入院調整は難航します」

 実は、県によっては病院の患者受入れ情報を「可視化」して医療者、行政が共有しているところもある。沖縄県がその好例だ。沖縄県庁4階の講堂、県コロナ対策本部の正面左上のスクリーンに、民間総合病院の救命救急センター長が3日徹夜してこしらえた県内21病院の患者受入れ状況システム(OCAS)が掲示されている。

 スクリーンにはリアルタイムで病院ごとの重症、中等症、軽症、無症状の入院患者数が示されている。ゼロなら白、1~2なら黄色、満杯は赤。どの病院もOCASにアクセス可能で、情報を共有できる。

 沖縄では昨年8月、GoToトラベル解禁で観光客が増えるとともに感染爆発が起き、スクリーンは真っ赤に染まった。すると県下の病院長が一堂に会して話し合い、データをもとに危機意識を高め、病床の上乗せを確約して医療崩壊を防いだ。

 いかに病院間での情報と危機感の共有が大切かおわかりいただけるだろう。人口が沖縄の十倍の東京でも基本原則は同じだ。しかし、風評被害を恐れてか、情報の透明化は進んでいない。いまこそ、社会的なインフォームド・コンセント(情報に基づく説明と納得)」が求められているのだが……。
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山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。『ドキュメント 感染症利権』(ちくま新書)、『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』(岩波書店)刊行。
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