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第6波への備え、弱点は最後の砦「ICU」

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【医療の裏側】絶対的に少ない「ICU」 そのコロナ転用もうまくいかない 

公開日: 2021/12/17 (ソサエティ)

Reuters Reuters

山岡淳一郎 (作家)

 12月14日、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は、記者会見でオミクロン株について「これまでに77か国が感染者を確認した」「実際検出されていなくてもすでにほとんどの国に広がっているだろう」と述べ、こう警鐘を鳴らした。「たとえ症状が軽かったとしても、多くの感染者が出れば医療制度が再び成り立たなくなる」。

 まるで、感染が抑え込まれている日本へのダイレクト・メッセージのようだった。ワクチン接種率が高く、年末にはコロナ経口治療薬の承認も見込まれ、このまま日本の感染は収束するのではないか、といった楽観論も出ている。が、感染力がデルタ株の2倍以上というオミクロン株は侮れない。疾病対策の核心は、一にも二にも医療提供体制を整え、「医療崩壊」を起こさないことだ。

 岸田政権は、第6波に備えて「病床の約3割増し、全国で約3万7千人が入院可能な体制が整った」と発表している。具体的には「公的病院の新型コロナ専用病床化」「国立病院機構等への国の権限の活用」などで必要な体制を確保すると言う。

 しかし、実際に感染爆発が起きて、感染者が巷に溢れたらどうなるかは見通せない。というのも、政府は、第5波までの感染拡大で「医療崩壊」が起きたことすら認めていないのだ。一般に医療崩壊とは、「治療が必要な感染患者が病床不足等で治療を受けられず、放置された状態で悪化し、死亡すること」を指す。そのようなケースが頻発したのは記憶に新しい。

 ところが、政府には「医療崩壊」の定義すらない。2021年1月、立憲民主党の衆議院議員からの質問主意書で「政府および厚生労働大臣が言うところの医療崩壊とはどのような状態を指すのか」と問われると、翌2月、菅義偉首相名で「政府として定義して用いている用語ではないため、お答えすることは困難である」と、まったく木で鼻をくくったような答弁書が出されている。

 政策のゴールが明確に示されないまま、手段としての医療提供体制の拡充が唱えられる異常な状態が続いている。

 おそらく政府や諮問を受けた専門家集団は、責任追及されるのを嫌い、医療崩壊を認めたくないのだろう。ならば「免責」の権利を留保してでも医療崩壊の現象を客観的にとらえ、防ぐために病床とマンパワーをどう確保するか根本策を提示する必要があるのではないか。

 実際に医療崩壊に直面した都道府県は、第3波~5波が過ぎた後、事後的に「自宅療養中に亡くなった人」の数を公表しているが、せいぜい数十人にとどまり、実態を反映していない。私が医療崩壊の度合いを推し量る目安にしているのは、感染しながら医療機関にかかれず、病院外で亡くなった「変死」事案(警察庁)だ。

 20年3月から21年8月までに、コロナに感染しながら自宅などで亡くなり、変死扱いになった人は、警察が把握しているだけで817人にのぼる。そのうち250人が、第5波のピークだった8月に集中しており、都道府県別では東京都が112人で最多だ。変死扱いなのでコロナ死亡者数にカウントされていないが、この方々は間違いなく、医療崩壊の犠牲者だろう。

 医療崩壊による死者を出さないために、より直接的に緊急確保しなくてはならないのは、「ICU(集中治療室)」のハードと、集中治療に携わる医師や看護師、臨床工学技士らのマンパワーであろう。この最後の砦が脆弱なままだ。

 たとえば、欧米で比較的感染を抑えているドイツと比較すると、人口10万人当たりのICU数は、日本「5・2床」に対してドイツは「33・9床」(OECDデータより)。ハードに大きな差があるのは、マンパワーがかけ離れているからでもある。

 人口約8400万人のドイツの「集中治療専門医」の数は8328人(2018年)。一方、1億2000万人の人口を抱える日本は2100人と極端に少ない(学会データ)。

 集中治療を重視してこなかった医学教育の歴史的背景などが影響している。集中治療医の少なさは、同時にICU専門の看護師の少なさに結びつく。

 拙著『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』(岩波書店)の取材で、コロナ重症患者を数多く治療してきた名古屋大学附属病院の救急・内科系集中治療部医局長、山本尚範氏は、看護師の役割を見直すよう、こう語った。

 「われわれ集中治療専門医は、患者さんの全身管理に細心の注意を払って、知識を総動員して判断をしますが、ICUの主力は看護師なんです。人口呼吸器の細かな数値モニタリングや、縟瘡(床ずれ)と体位の管理、口腔ケア、栄養管理、人工呼吸器離脱後のリハビリ……と仕事は山積しています。ICU病床の確保は重症患者に対応できる看護師の数に直結しています。ですから、重症患者をケアする看護師の給与や勤務体制などの待遇改善は必須です。そこは声を大にして言いたい」

 さらにICUの構造的問題を、次のように指摘した。

 「私の試算では、全国のICU約7100床で、ある程度手術を制限してコロナに転用できるのは、人員を含めて3分の1弱、約2300床ぐらい。これを最後の砦にすれば、何とか持ちこたえられる。だけど都道府県単位で差配するシステムがなかなか働かない。法律も機能しません。もともとICUがある病院の平均ICU数は、8・7床と規模が小さく、コロナ患者を1人、2人入れるとマンパワーを取られて、手術すべてを止めなくてはならない。この根本的な問題をどう乗りこえるか、です」

 この山本医師の証言は、第3波が収まりかけたころに得たものだ。その後、第5波でデルタ株の感染爆発が起き、コロナ重症者が1000人を超えると医療提供体制に赤信号がともった。21年8月下旬に重症者が2000人を突破し、2200人台が続いた9月初旬にかけて、医療崩壊が起きていた。山本医師の見立てどおり、重症病床は2300床程度が限界なのかもしれない。

 ここをどう拡張するか。ハードとしては、ICUと一般病床の中間的位置づけのHCU(ハイケアユニット・高度治療室)をコロナ重症病床への転用が進められているが、マンパワーの問題は残る。限られた医療資源を活用するには、ICUを数多く抱えている大学病院と中等症を診る病院との協力強化が不可欠だろう。そのためには厚生労働省だけがコロナ対策を担うのではなく、大学を管轄する文部科学省との連携が不可欠である。この省庁の壁を乗りこえられるかが、医療提供体制の鍵を握っている。
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山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。『ドキュメント 感染症利権』(ちくま新書)、『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』(岩波書店)刊行。
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