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安倍前首相の「置き土産」に自治体から不満噴出

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【医療の裏側(24)】自治体の意見反映し修正へ

公開日: 2020/09/30 (ソサエティ, コロナ(国内))

Reuters Reuters

山岡淳一郎 (作家)

 安倍晋三前首相が、8月28日に退任表明した際、インフルエンザの流行に備え、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた「対策パッケージ」なるものを公表した。この置き土産、検査能力の拡充はともかく、新型コロナ感染症の感染症法上の措置の見直しについては全国の県知事の大反発を買った。

 新型コロナ感染症は、感染症法の「指定感染症」になっており、結核やSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)など二類感染症以上の権限を行政が行使できるようになっている。感染者には入院を勧告でき、濃厚接触者をあぶりだすために感染者の行動履歴を追う積極的疫学調査も行える。その代わり、医療費は全額公費負担だ。

 しかし、5月末に第一波が収束後、民間検査機関が動員されてPCR検査数が増えるにつれて陽性者が激増した。とくに東京都は、8月1日、一日当たりの新規感染者数が472人と過去最高を記録する。感染者の8割は無症状または軽症だ。指定感染症だからといって全員を入院させていたら病床がいくらあっても足りない。冬場にインフルエンザとコロナが同時流行すればなおさらだ。

 無症状、軽症の人は自宅療養もしくはホテルでの宿泊療養とし、病院のベッドは重症者に割り当てる。医療機関の負担を軽減するためにも感染症法に基づく権限の運用を見直そうというのが、前首相の置き土産の骨子だった。一部メディアは、新型コロナ感染症への厳しい措置を、インフルエンザ並に緩和すべきと報じた。

 一見、理屈に合っているようだが、現実はそう単純ではない。新規感染者が連日、数百人単位で発生する東京の感覚を全国に押しつけたら大間違いなのである。安倍前首相の退任表明会見の前日、大阪・京都など12府県・政令市が参加する関西広域連合は、置き土産を察知し、「各都道府県で感染拡大防止と医療提供体制の確保に全力で取り組んでいるなか、ダウングレードは時期尚早」と意見を集約。

 平井伸治・鳥取県知事は「冬場に大きな波が来ようとするなか、引き下げは暴挙に等しい。我々に職場放棄をしろというのか」と怒った。
  
 その後、全国知事会も「入院勧告や医療費の公費負担、積極的疫学調査などの適用がなくなれば、感染制御は支障をきたす」と表明した。知事は、入院勧告の権限を持つから、軽症、無症状で自由に行動しようとする感染者を一定期間、隔離することができる。保健師が疫学調査に集中できるから接触者が追える。そうやって感染を抑えてきた。

 地方は東京に比べて感染者が少ない。たとえば、和歌山県は、9月20日時点で累計の感染者数は240人、死亡者数が4人。人口10万人当たりの死亡者数は0.04人。かたや東京都は感染者数2万5257人。死亡者が400人。人口10万人当たりの死亡者数は2.86人と大きな差がある。

 一方で、和歌山は、2月半ば、全国で初めて病院の院内感染(済生会有田病院)が発生し、関係者全員へのPCR検査による陽性者の発見、隔離と徹底的な行動履歴調査で抑え込んだ。保健医療政策で必死に感染を抑えてきたという自負があり、その分、県民一人ひとりの生命の感覚が重い。

 仁坂吉伸・和歌山県知事は、前首相の置き土産について筆者がインタビューすると、「医療や保健は誰のためのものですか。県民、国民のものでしょう。行政や医療機関の負担が増えてはいけないから、そのしくみを見直すというのは本末転倒。自分らの怠慢を正当化してしまう。根本的に間違っている」と喝破した。

 では、置き土産の後始末はどうなるのか。厚生労働省や専門家も、現時点で新型コロナ感染症をインフルエンザ並の扱いにしようとは考えていない。指定感染症としての措置や運用については厚労省の「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」のなかにワーキンググループが作られ、そこで討論されている。

 9月18日の会議で、入院措置について話し合われ、次のような「見直しの方向性」が出された。

 「感染症法に基づく入院措置の対象について、高齢者や基礎疾患を有する等の重症化リスクのある者や現に重症である者等の医学的に入院治療が必要な者とするなら、規定の見直しをしてはどうか」
 「感染症のまん延を防止するため都道府県知事等が入院を必要と認める者について、合理的かつ柔軟に入院措置ができるよう、規定を整備してはどうか」

 まだ推定の域を出ないが、入院措置の対象は原則的には重症化リスクの高い人と規定を見直す。そのうえで都道府県知事に「感染症のまん延を防ぐ」という理由で入院勧告ができる裁量権を残す方向に収まりそうだ。

 それにしても、大都市圏と地方とのコロナ観の違いは看過できなくなってきた。
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山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。『ドキュメント 感染症利権』(ちくま新書)を 8月7日発刊予定。
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