東九州自動車道の未開通区間にあるミカン農園を巡り、用地明け渡しを拒否してきたミカン農家に対する行政代執行が7月中旬に行われた。職員に抱えられて連れて行かれる農家を見て、成田空港建設反対派の「団結小屋」の強制撤去を思い出した人がいたかもしれない。一方、近年問題になっているゴミ屋敷や放置空き家に対する代執行はあまり聞いたことがない。どういうことなのか。
行政代執行は例えば、県知事が違法建築物に対して建築基準法9条第1項に基づく除去(撤去)命令を出したが、建物所有者が応じないため、「行政」が「代」わって命令を「執行」することだ。つまり、行政が命令を出すことが前提で、この命令を実現するために代執行が行われる。行政法学的には「義務履行確保の手段」と言われる。今回のミカン農園は土地収用法に命令の規定がある。
しかし、ゴミをためていただけでは直ちに違法とは言えない。長年空き家にしていたことも同様だ。命令を出せない以上、行政が代わって命令を執行することも出来ない。
もっとも、各自治体も手をこまねいていたわけではない。和歌山県は「特に著しい破損・腐食等が生じている周辺の良好な景観と著しく不調和な状態」にある建築物に対して、撤去を命じることが出来る条例を2012年1月に施行した。これに続き、全国約400自治体が同様の条例を制定した。しかし、実際に代執行に至った例は稀で、先行した和歌山県も1件もない。和歌山県は「住民の意識が高まった結果」とするが、代執行は憲法違反ではないかとの指摘もある。
行政代執行法2条は「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。)により直接命ぜられた行為」について、命令に従わない場合に代執行が出来ると定める。文言解釈として、カッコ書きの「法律の委任に基く」が「命令、規則」にかかるのは明かだが、「条例」にまでかかるかどうか争いがある。
条例にもかかると考えた場合、法律の委任がなければ各自治体は代執行の対象になる命令を独自条例で規定することはできない。代執行は憲法上保障される所有権に対する強い侵害になるため、代執行の対象となる命令は国民代表機関である国会の制定する法律でのみ創出できるとの考えだ。
各自治体の要請を受け、昨年12月、いわゆる空き屋対策法が成立、今年5月、代執行を可能にする関連規定が施行された。同法は①「倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」②「著しく衛生上有害となるおそれのある状態」などにある空き家に除去、修繕等の命令を出すことが出来る。①は今にも倒壊しそうな空き家や雪下ろしされないまま放置された空き家②はゴミ屋敷を想定している。
この法律の規定により、憲法上の疑義がなくなり、各自治体は代執行をしやすくなった。また、法律の抑止効果によるゴミ屋敷や放置空き家の減少も期待される。