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どの介護施設にも潜む虐待の芽

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【尊厳ある介護】県内施設のスタッフ逮捕を検証してみて

公開日: 2022/01/28 (ソサエティ)

【尊厳ある介護】県内施設のスタッフ逮捕を検証してみて

 昨年の10月、耳を疑うようなニュースがありました。

 広島県の特別養護老人ホームで90から100歳代の入居者にわいせつ行為をしたとして元施設介護職員の男性27歳と女性37歳が準強制わいせつ容疑で逮捕されたのです。

 発表によると、男性は9月27日施設内で90歳代の女性の上半身を触り、女性は100歳代の男性の下半身を触った疑いがあるそうです。

 県警が10月、男性を施設の女子更衣室に侵入した疑いで逮捕した際、押収したスマートフォンなどから、入所者へのわいせつ行為が判明。11月に施設内で別の90歳代の女性に身体を触らせたとして、2人を準強制わいせつ容疑で逮捕したそうです。

 その施設は私が所属する広島県老人福祉施設連盟(老人福祉の向上発展などを目的として広島市を除く広島県内の社会福祉法人が経営するほぼすべての高齢者施設・事業所が加盟する組織)の会員施設で、施設長とは顔なじみでした。

 すぐに実直で温和な人柄の施設長のお顔が頭に浮かびました。

 あの施設長の施設でわいせつ行為の疑いで職員が逮捕されたなんて、すぐには信じられませんでした。

 加盟法人から逮捕者が出たこともあって、急遽役員会が開かれました。

 そこで、事件の重要性と社会的影響を鑑み、事実確認とともに連盟としてできることを模索するため、ヒアリングを実施することになったのです。その担当に任命されたのが、副会長である私と理事の1人です。

 雪がちらついているクリスマスの日、私たちは施設を訪ねました。

 施設長は事件の対応に追われて忙しくされていましたが、嫌な顔ひとつせず「迷惑をかけて申し訳ありません」と、最初に謝罪されました。

 続いて、「今はまだ捜査中なので詳細なことは分かりませんが」、と前置きされて、分かる範囲で誠実に事件の経過を話してくださいました。

 逮捕された2人の職員は真面目に勤務していたそうです。男性は積極的に入居者と関わっており、女性は介護経験が長く面倒見が良かったそうです。
 
 「まさかこの2人がこんな事件を起こすなんて」。

 施設長は肩を落として言われました。

 事件が発覚した後、施設はすぐにご家族に対してお詫びの文章を出されていました。

 また、更衣室入口には防犯カメラを設置して無断侵入を防いだり、犯罪行為をした時の社会的制裁や家族の影響など職員研修を開いたりしています。

 さらに、職員会議を開き事実を説明し、再発防止についての説明や意見を募ったそうです。

 産業カウンセラーへ相談し職員の精神面のサポートも依頼していました。

 その後、警察の許可が出たので被害家族へ謝罪に行かれたそうです。

 私はどうしてこのような事件か起きてしまったのか、施設のガバナンスに問題があったのではないか、不躾ながらいろいろな質問をさせていただきました。

 まずは、虐待防止の研修などしていなかったのか聞いてみましたが、身体拘束・虐待研修もされており、虐待防止委員会や身体拘束防止委員会も立ち上げて活動しているのです。

 被害を受けた入居者は認知症の人ではないかと推察し、認知症に対する取り組みを聞いてみましたが、職員の中には認知症の指導者もいて認知症ケアに力を注いでいる姿勢も伝わってきます。

 顧問弁護士もおられ、コンプライアンスも重視されています。実習生も受け入れており、それほど閉鎖的な環境ではないように思われます。

 職員にヒアリングをしたわけではないので、一方的な見方になっているかもしれませんが、他の施設と比較し虐待を生む特別な問題点は見当たらないのです。

 気になったことがあるとしたら、職員がスマートフォンを業務中に所持していたことです。しかし、他の施設でも禁止していない所はあるので、それが虐待の土壌になっているとは思えません。

 なので、一つ歯車が狂うと、どこの施設でもこのような事件が起こると考えざるをえませんでした。

 施設長は今後再発防止のため第三者委員会を立ち上げて調査し、被害を受けたご家族の要望も取り入れ、スマートフォンの業務中所持禁止、職員は名札を付けたり、希望者への入浴時の同性介助などを検討していくそうです。

 そして、「今回のことはとても辛いできごとでしたが、入居者のことを思うとむしろ事件が明るみ出て良かったと思います」。言葉をかみしめながら話されました。

 私たちはできうる限りのサポートをし、虐待防止の研修会を開くことを約束して別れました。

 ところが、残念なことに今年の1月、新たに1人元職員が同じ容疑で逮捕されました。逮捕された3人は不起訴になったそうですが。

 3人はすでに退職していますが、このような事件が起きると続いて退職者が出ることは容易に想像できます。

 それほどの窮地に立たされても、施設長は「不起訴になったからと言って虐待がなかったわけではありません。不適切なケアがあったことは事実です」と、言い訳や弱音を吐かないで、入居者やご家族、真摯に介護をしている職員のためにできる所から改善していきたいと決意表明されました。

 きっと、自責の念にかられ眠れぬ夜を過ごしたのは1度や2度ではなかったはずです。

 実は私にはどこの施設にも潜んでいる虐待の芽に心当たりがありました。

 介護現場の常識があまりに社会の常識とかけ離れているからです。

 介護の仕事は排せつや入浴介助といったように、パーソナルスペース(人の心理的テリトリー)に踏み込む場面が多くあるので、入居者との関係が近くなりすぎて、ややもすると適切な距離が分からなくなってしまうからでしょうか。

 そのことに、危機感を抱いていたのです。

 たとえば、マナーです。

 一般社会だとお客さまに対してため口や幼児語、命令口調や指示語で話すことはありせんが、介護現場では日常茶飯事です。それにさほど違和感を持っていないのです。

 私の施設でも常日頃から言葉遣いには気をつけるよう研修していますが、正直に言うと全員の職員が理解しているとはいえません。

 また、入居者のお部屋に入る時ノックをしなかったり、排泄時周りに入居者がいるのに「大きな便がでましたね」等と言ったり、入浴介助においては異性の介助で良いか聞くことさえしていない施設が多くあります。

 もちろん、希望を聞いたところで叶えることができないという理由も重々承知していますが。

 でもむしろ、高齢者だから認知症だから、マナーは必要ないという尊厳を損なう意識が、怖いことに虐待の芽になっていることを、私たちはもっと重く受け止めなくてはなりません。

 それだけではありません。

 職員のストレスマネジメントも気になるところです。

 コロナ禍、職員のストレスは想像以上に増大しています。ストレスが虐待につながることも充分考えられます。

 個人面談をしたりストレスチェックをしたりして、職員をケアすることが大切なのですが、そこまで手が回っていないのが現状です。

 加えて、職員を厳しく指導して辞めてしまうと、新たな採用は難しいので、注意したくてもできない情けない現状も無視できません。施設には職員の配置基準があるので、基準の職員数を確保する必要があるのです。

 介護分野の人手不足は社会の問題でもあります。施設の自助努力だけでは解決できない面があるということを、もっと社会に知ってもらいたいと願うのは私だけでしょうか。

 このように、介護現場には課題が山積みされていますが、だからと言って虐待を放置しておくわけにはいきません。

 ヒアリングを終えて、私は施設の存在意義について、自問自答するようになりました。山積みされた課題の解決の糸口がそこにあるように思えたからです。

里村 佳子 (社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)

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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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