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コロナで施設退所が増えている

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【尊厳ある介護】行事や面会の減少が認知症の進行を早める

公開日: 2021/08/25 (ソサエティ)

写真AC 写真AC

 「これまでのようにそちらの施設に行けなくなったので、自宅近くの施設に母を呼び寄せます」。

 河谷鈴子さん(仮名88歳)の娘さんは、頭を深々と下げて退所のご挨拶にいらっしゃいました。

 河谷さんは夫を亡くされたことがきっかけで、物忘れが目立つようになり施設に入所されました。でも、施設での生活は順調とは言えませんでした。

 河谷さんは物忘れがあってもしっかりされているので、介護スタッフに介護されている重度の利用者を見ると叱咤激励します。その言動が行き過ぎる度に、介護スタッフはやんわりと注意していましたが、改善されませんでした。

 ところが、新型コロナウイルス感染予防のため、他の施設の利用者と合同で行っていた「交流の時間」(レクリエーションや機能訓練などを行う)が中止になったのをきっかけに、その言動は消失しました。

 というのも、身体を動かすのが得意な河谷さんにとって「交流の時間」は、自分の力を存分に発揮できる絶好の機会だったのです。その場所を失って認知症が一気に進行しました。その結果、意欲をなくし他の利用者を干渉しなくなったのです。

 遠方にいる娘さんは、定期的にお母さんを訪問されていましたが、コロナ禍で面会の回数は減りました。それも状態が悪化した要因の一つかもしれません。

 久々に面会に来られた娘さんは、お母さんの急激な変化を見てショックを受け、もっと頻繁に会えるよう退所の決断をされたのです。

 実は、退所される利用者は河谷さんだけではありません。

 出口宏さん(仮名87歳)は夫婦で暮らしていましたが、認知症になったので施設に入所されました。

 自宅にいる妻は今までのように面会ができなくなったので、お手紙を書いて夫を励ましていらっしゃいました。

 出口さんは文字を読み書きできるので、介護スタッフがお手紙を渡すと、照れくさそうに何度も読み返していました。

 そばで見ていた介護スタッフは返事を書くことを勧め、妻との文通が始まりました。

 文通をするうちに、妻は残された時間をどうしても夫と暮らしたいと切望するようになりました。息子さんたちはお母さんの負担が増えるのではないかと心配されましたが、お母さんの決意は変わりませんでした。

 そして、とうとう夫婦が一緒に住める施設を探して退所されました。

 会えない時間が夫への愛情をつのらせたのでしょうか。

 他方で退所を断念された利用者もいらっしゃいます。

 「施設にいるとコロナに感染するので、自宅に戻る予定です。後ほど家族が退所届けを提出します」。

 弾んだ声で内村伸介さん(仮名83歳)から申し出がありました。

 内村さんは身の周りのことは自分でできるので、受け入れるご家族の身体的負担は重くはないと思います。ですが、環境の変化による精神的負担は見過ごすことはできなせん。私たちはその申し出に一抹の不安を覚えました。

 ところが、いつもで待っても退所届けは提出されません。なぜか内村さんも退所を口にすることはなくなりました。どうやら、内村さんとご家族の間に気持ちの行き違いがあったようでした。

 このところ、コロナ禍が長引いて利用者の住み替えが増加している印象を受けます。

 特に遠方にいて利用者と離れて暮らしている家族は、面会しにくい状況でストレスを抱えています。そこで、面会しやすい環境を求めて高齢者の移動が始まっているのです。

 このように新型コロナウイルスは、高齢者の住まいにまで影響を与えています。加えて、かつては表に出てこなかった家族の関係性までもあぶり出しているのです。

 その傾向は二極化し、太い絆で結ばれている家族はますます強固になり、細い絆で結ばれている家族は、途切れてしまう危機に陥っています。

 絆をつなぐため私たちの施設で実施していることは、利用者の日々の生活を写真・手紙・電話・オンラインでご家族に発信することです。
 
 さらに、様々な面会方法を提供し、可能な限り制限を緩和して、対面での面会を継続しています。

 一度絆が切れると、高齢者の受ける心の傷は癒し難いのです。

(注) 事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。

里村 佳子 (社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)

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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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