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伴侶への強い依存が招くこと 

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【尊厳ある介護(118)】安らかな看取りを選択できず

公開日: 2021/01/27 (ソサエティ)

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里村 佳子 (社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)

 「妻を家に連れて帰ります」。

 山根静子さん(仮名83歳)の夫は、施設を訪ねて来ておっしゃいました。

 「お家でお世話をすることは難しいと思うのですが」と、介護スタッフが何度説明しても、聞き入れてはもらえませんでした。

 施設入所前、山根静子さんは大病を患っていましたが、自宅で夫と2人で暮らしていました。

 それでも静子さんが自分で身の周りのことをできていた頃は良かったのですが、だんだん弱って歩くこともままならないようになりました。その上、認知症も発症しました。

 ところが、夫は静子さんの病状を理解できませんでした。怠けているのだと思って、引きずるようにして歩かせたことも1度や2度ではありません。

 だから、静子さんの身体には傷やあざが絶えなかったそうです。

 見かねたケアマネジャーが「これ以上自宅で介護することは無理です。共倒れになる前に施設を検討しましょう」と言って、妻の施設入所を勧めました。

 初めはなかなか「うん」と言わなかった夫でしたが、自分も家事や介護で疲れたせいか、施設入所を承諾されました。

 なのに、毎日のように施設に来ては静子さんのベッドの側に座り、「今から家に帰ろう」と誘うのです。静子さんも嬉しそうにして「帰りたい」と答えます。

 そして、「妻も帰りたがっているのに、どうして連れて帰ってはいけないのか」と、詰め寄るのです。介護スタッフは夫に時間を取られて疲弊しました。

 一方静子さんといえば、部屋に閉じこもってベッドに横たわり頻回にナースコールを押されます。その都度介護スタッフがお部屋に行くと、「体が痛い」とか「寂しいので夫を呼んで」と訴えるのです。                                                                                                                                                                                                                                             

 介護スタッフもお二人の気持ちを尊重したいのですが、家に帰ったら同じことを繰り返し、取返しのつかないことにもなりかねません。

 そこで、夫に思い切って「毎日訪問されると、奥さまが施設に慣れないので、少しの間控えてもらえませんか」と、お願いしました。

 主治医も静子さんの施設入所の必要性を口添えしてくださいました。

 すると、夫は「当分の間訪問を控えます」と約束してくださったのですが、翌日また施設に来られたのです。

 それだけではありません。あんなに当分来ないと約束されたのに、それをすっかり忘れていらっしゃったのです。

 そんなこともあって、介護スタッフは夫が軽度の認知症ではないかと思い始めたのです。

 一見夫はコミュニケーションができるので気付かなかったのですが、そうであれば一連の言動が理解できます。

 しかし、夫に受診を勧めることなど到底できそうにありません。

 悩んだあげく、ケアマネジャーに受診を促してもらいました。その結果、初期のアルツハイマー型認知症と診断されたのです。

 ですが、夫はその診断を受け止めようとはしませんでした。

 その後夫は相変わらずでしたが、静子さんには変化が見られるようになりました。居室から出て利用者や介護スタッフとおしゃべりするようになったのです。

 そんなある日、いつものように夫が「家に帰ろう」と誘うと、静子さんは「私はここにいます」と、うつむいて答えたのです。

 夫は憮然とした表情でその場を立ち去りました。

 実はお二人の関係は静子さんが夫に依存しているように見えますが、夫も同様に静子さんに依存していたのです。

 でも、静子さんが施設に入所したことで、お二人の間に温度差が生じました。

 夫しか見えなかった静子さんは人間関係が拡がり、要介護状態でも精神的に自立し始めたのです。

 片や、夫は依然として静子さんを必要としていました。

 自分に依存する人を失うと、自身の存在意義を見出せなくなると、無意識のうちに分かっていたのかもしれません。

 それからしばらくして、静子さんの体調が悪化し、主治医から治療をしても回復は見込めないと告げられました。

 夫に施設で最期を迎えるかそれとも入院するかを伺ったところ、静子さんには相談せずに、入院を希望されました。

 私の脳裏に夫唱婦随という言葉が浮かびました。
 
 確かに仲の良い夫婦は美しいのですが、一歩間違えると共依存や支配の関係に陥る可能性があります。

 もし、お二人がもっと早くその危険性に気付いていたら、夫婦の関係も変わっていたのかもしれません。

 静子さんは自宅には帰らず入院されました。そして、二度と施設には戻ってきませんでした。

(注)事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。
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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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