身近な高齢者介護施設で、新型コロナウイルス感染症のクラスター(小規模な集団感染)が発生しました。
そちらの施設は、感染拡大を防止するため施設名を公表するという勇気ある決断をされました。
その英断で、感染の経緯などの調査を綿密に行うことができ、拡散防止に効果をあげたそうです。
しかしながら、施設名を公表したことが裏目に出て、施設だけでなくスタッフやその家族までも誹謗中傷され、辛い思いをされているとお聞きしました。
クラスターが発生し現場はパニックに陥っているのに、施設名を開示するとバッシングを受けるのであれば、当然施設名を明かさない所も出てきます。
すると、感染のまん延に繋がりかねませんが。
このように、医療現場同様介護現場でも新型コロナウイルス感染症で、緊張感が高まっています。
一番恐れているのは施設にクラスターが出ることで、従来のサービスを提供できなくなることです。
最悪のシナリオは施設崩壊です。
ほとんどの施設はギリギリの人員で運営をしているので、クラスターが発生しスタッフが欠けてしまうと、24時間365日の切れ目のない介護ができなくなります。
だから、私たちの施設ではスタッフ全員が感染したり濃厚接触者となったりしないよう、スタッフをグループ分けして、一方のグループが感染しても、もう一方は感染しないように勤務体制を見直しました。
また、施設でクラスターが発生した場合を想定して、スタッフが家族への感染を恐れ車中泊などすることがないよう、サービス付き高齢者向け住宅などの空室をスタッフ専用の宿泊施設として確保しました。
スタッフが疲弊して、退職することがないよう環境整備に先手を打ったのです。
それでもスタッフ不足が起これば、法人内にあるデイサービスなどの事業を一時的に縮小あるいは休業をして、施設利用者の生活を守るような対策を練っています。
ですが、運よくスタッフの確保はできたとしても、マスク、手袋、体温計、防護服などの衛生用品は以前より手に入りやすくなっているとはいえ、充足しているわけではありません。
布マスクは国から支給されましたが、サイズが小さいので補修をして使っています。
つまり、十分な防護用品もない介護施設でクラスターが発生すると、基礎疾患を持った高齢の利用者は、短期間で重篤な状態に陥るのです。
その上、施設には歩行可能な認知症の人もいて、居室に隔離するには限界があり、感染防止は至難の業です。
だから、自衛として外部の人の面会を禁止し、新型コロナウイルスを施設に持ち込まないよう努めていますが、気付かぬうちにスタッフが感染源となることも考えられます。
それを最小限に防ぐため、スタッフだけでなく同居の家族に感染者や発熱、風邪症状、呼吸症状等異常が出た時は、管理者に報告するように指示を出しました。
反面、あまりに新型コロナウイルス感染症に過敏に反応しすぎると、事業の自粛に舵を切りたくなります。
すると、介護サービスの量が不足し、在宅介護をするご家族の生活が破綻してしまうリスクもあります。
なので、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症で得たこれまでの知識と経験を基に、新型コロナウイルス感染症の情報を共有し、従前どおり手洗い、うがい、発熱などの健康チェックを粛々と行って、感染予防に励んでいます。
一つの施設だけでこの感染症に立ち向かうには限界があります。
もし、施設に感染者が出ても、円滑に医療機関に入院できたり、看護介護スタッフなど専門職のサポートがあれば、施設崩壊も回避できるように思います。
そのためには、行政と医療と福祉介護の連携が肝になります。
新型コロナウイルス感染症は、連携できている地域とそうでない地域の格差を表面化させます。
今こそ地域包括ケアの成果が問われているのではないでしょうか。
新型コロナの集団感染 スタッフ不足で施設崩壊の恐れ |
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【尊厳ある介護(100)】一施設では対策には限界、もしもの時の入院保証があれば安心
公開日:
(ソサエティ)
CC BY-SA /Arlington County
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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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