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認知症でも、被爆体験は鮮明に

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【尊厳ある介護(107)】原爆の日、先人たちに学ぶ

公開日: 2020/08/26 (ソサエティ)

アメリカ軍作成の旧広島市の地図、濃い赤が全壊地域=cc0 アメリカ軍作成の旧広島市の地図、濃い赤が全壊地域=cc0

里村 佳子 (社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)

 毎年8月6日の原爆の日になると、広島県呉市では1分間の黙とうを呼びかけるアナウンスがあります。

 今年は黙とうした後で、今まで感じたことのない後悔の念にかられました。

 私は何人もの被爆者から生々しい体験を聞いていましたが、それなのに何も残していなかったことに気付いたからです。

 そのため、この紙面を借りて忘れられない被爆者について、書き留めておきたいと思います。

 稲垣小夜さん(仮名90歳)は娘さんが嫁いだ後、お一人で生活をしていました。物忘れが顕著になった頃から、朝食を済ますと自宅を出て、知り合いの人の家を訪ねるようになりました。

 そのことを知った娘さんは、周りの人に迷惑をかけてはいけないと思い、デイサービスを利用するようにお母さんに勧めました。初めは気が進まなかった稲垣さんでしたが、もともと温和で協調性もあったため、すぐにデイサービスになじまれました。

 ところが、入浴になるといろいろと理由をつけて、やんわりと拒否されるのです。

 相談員が理由を聞くと、「原爆で背中にケロイドが残っているから」と、やっと重い口を開いて話してくれました。

 そんなある日、デイサービスのドライバーから「自宅にお迎えに行っても、稲垣さんの姿が見えない」と、連絡がありました。

 心配なのでいつもの知り合いのお宅まで探しに行くと、家の辺りをうろうろしている稲垣さんを発見しました。どうやら、デイサービスの利用日であることを忘れて外出したようすでした。

 私は恐縮している稲垣さんにお声をかけて、デイサービスにお連れすることにしました。

 その道すがら、独り言のように話す被爆体験を聞いたのです。

 原爆が落ちた日、広島の街は焼け焦がれた死体と爆風で血だらけになった人々で地獄絵図と化したそうです。

 夫も原爆で亡くなり、自らも大火傷を負い、もう死んでもいいと何度も思ったそうです。それを思い止まったのは、疎開先に残した子どもがいたからとまるで昨日のことのようにおっしゃいました。

 その後も原爆症は感染するなどといった偏見や後障害に対する不安で、随分苦しんだそうです。

 稲垣さんは認知症で他のことは忘れていても、あの日のことははっきりと覚えていました。肩から背中にかけてあるケロイドを見るたびに、地獄絵図が蘇っていたからでしょうか。

 当時は分かりませんでしたが、広島に原子爆弾が落ちたのは8時15分なので、その時間帯になると不安になって、知人を訪ねていたのかもしれしないと、今になって思うようになりました。

 実はこのコラムを書いている本日は、8月15日終戦記念日です。

 平和な今日では、誰もが自分と自分の大切な人の命が奪われるかもしれない戦争に対して異を唱えると思いますか、戦時下では戦争は肯定されていました。

 お国のためならば命を落とすことも厭わない教育と偏った情報のせいでしょうか。

 当時その考えはおかしいと思っていた人もいたそうですが、それを声にすると社会から非難されたりのけ者にされるので、表面的には同調していた人もいたと聞きました。

 新型コロナウイルスが流行し始めた頃から、新型コロナウイルスに罹患した人、感染者の多い地域や職業の人などを非難したり、悪者のように扱ったりする傾向が見られるようになりました。

 また、自粛警察と呼ばれる人まで出現し、地域住民を監視するようになりました。

 それだけでも心は痛みますが、新型コロナウイルス感染防止の大儀の下、マジョリティ(多数派)の考えとは異なる意見を、大手を振って言うことができにくくなったように思えてなりません。

 そして、その空気感に戦時中の共通点を見出し何だか落ち着きません。

 私は個人の多様な考えが尊重されない社会に平和は訪れないと、多くの先人たちが払った犠牲から学びました。

 だから、小さなことですが、新型コロナウイルスに関する情報も本当に根拠のあるものか、別の視点で書かれている情報も自分なりに調べて、風潮に流されないよう目を覚ましているのです。


(注)事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。
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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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