このところの私は天気予報に目を通すことが日課になっています。台風情報が気になるからです。
もし、高齢者施設が被災すると、犠牲者がでる可能性が高いことは、皆さんも容易に想像できるのではないでしょうか。
記憶に新しいところでは、熊本の特別養護老人ホーム「千寿園」が被災し、入居者14名が心肺停止状態で見つかったという悲惨なできごとがありました。他人事とは思えず心を痛めています。
そこで、今回は平成30年7月に起きた西日本豪雨災害の経験をもとにした取り組み、「広島さっそくネット」についてお伝えしたいと思います。
広島さっそくネットとは、「災害時等における安心を共に支えあう相互協力に関する協定」を締結している社会福祉法人などの13団体(高齢者施設・障害者施設・児童施設・保育所など)で、構成する相互支援ネットワークです。
災害時には、さっそくネット会員施設と広島県・広島県社会福祉協議会が協力して必要な情報や支援物資を届けます。
迅速に対応するため、広島さっそくネットにおける地域エリア23市町を16エリアに分割して、それぞれのエリアにリーダー施設を配置しています。
私の施設は呉市及び江田島市のエリアリーダーです。
そのため、エリア内の施設が被災して救援物資が必要になった場合は、地域のリーダーである私の施設が拠点となって受け渡しをします。
エリアリーダーの役割はそれだけではありません。
お互い顔の見える関係を築くため定例のエリア会議を開いたり、パソコンなどで被災状況を集約するシミュレーション訓練を実施したりしています。
先日はある地域が被災したと想定して、アンケートフォームを使用したシミュレーション訓練を行いました。
訓練の流れを大まかに説明すると、まず各業種別団体事務局から、会員施設へ訓練メールを送信。続いて、広島さっそくネットエリアリーダーから、エリア内の施設に訓練メールを送信。
両方からメールで案内を行うことで、訓練の参加促進を図ります。
訓練メールを受け取った施設は「被害状況フォーム」にある基本情報を記入し、「被害あり」あるいは「被害なし」を選択して送信します。「被害なし」を選択した施設はそれで訓練終了です。
「被害あり」を選択した施設には、「必要物資についての被災施設への聞き取りフォーム」が送信されてくるので、これに回答して返信すれば訓練終了です。
さらに、画期的なのは社会福祉施設などで新型コロナウイルス感染症が発生した際、この広島さっそくネットを活用した支援が可能となったことです。
具体的には、新型コロナウイルス発生に備え、各エリアリーダー施設にマスクやフェイスシールド・ガウン・手袋・消毒用アルコールなどの感染防止資材を備蓄し、クラスターが出た施設に配布できる仕組みができたのです。
クラスターが出て、自施設の感染防止資材が足りなくなっても、エリアリーダー施設に備蓄があれば安心感が違います。
他方で、災害時のネットワークを、感染リスクのある感染症に活用して良いのかという意見もありました。
確かに、クラスターの出た施設のスタッフがエリアリーダー施設に感染防止資材を取りに来ると、感染が拡大しないとはいえません。
協議の結果、エリアリーダー施設は感染防止資材を玄関フロアーなどに平積みにしておき、クラスターの出た施設はそれを持ち帰ることで、直接手渡しすることがないよう感染防止対策をしました。
反面、エリアリーダー施設としては、感染防止資材の置き場に苦慮しています。かなりのボリュームの資材を、適切な環境下で預かっておかなければならないのですから。
このように、平時にこそ協議の場を設けたり訓練を実施したりしていないと、実際に災害や感染症が発生した場合には、身動きできません。
これは、西日本豪雨災害で身をもって実感したことです。
だから、今日も私は天気予報に目を通しているのです。
だから、きょうも私は天気チェック |
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【尊厳ある介護(109)】広島で支援物資の備蓄と融通ネット そのリーダー施設に
公開日:
(ソサエティ)
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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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