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【尊厳ある介護(113)】能動的に相手の声を聴く大切さ

公開日: 2020/11/18 (ソサエティ)

CC BY-SA CC BY-SA /hernanpba

里村 佳子 (社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)

 「食欲がないので朝食はいりません」。

 施設利用者の相田一馬さん(仮名82歳)は、相談員におっしゃいました。

 「体調が良くないのですか」と尋ねると、自分の病気について饒舌に話されたそうです。このような光景はこれまでもありましたが、最後の一言に相談員は一抹の不安を覚えました。

 「自殺しようと思う」と言われたのです。

 理由を聞くと、「誰も自分の身体のことを分かってくれない」と、思いつめた表情で訴えられたそうです。

 以前も体調不良や周囲の利用者間にトラブルがあると、「長生きしてもろくなことはない」と言ったネガティブな言葉を繰り返すことはありました。でも、自死を願う発言はなかったのです。

 そのため、私たちは相田さんの最近の変化について話しあうことにしました。

 すると、長男さんや仲の良い友人が、施設にお見えにならないことに気付きました。実は、相田さんは他の利用者の一挙一動が気になって、人間関係にストレスを抱えていたのです。

 だから、話し相手がおらず一人悶々としていたのかもしれません。

 また、自分の健康に拘り、わずかな体調の変化も見逃さず受診していましたが、医師の診断や薬に納得できないことが何度もあって、不安と苛立ちをつのらせていました。

 そこで、長男さんに協力を求めることにしました。相田さんの状態をお伝えし、電話でもいいので連絡をしてほしいとお願いしたのです。

 すぐに長男さんは施設にお越しくださり、付き添って病院を受診されました。

 嬉しそうに病院に出かける相田さんの姿を見て安堵したのも束の間でした。数日後外出先で転倒して救急搬送されたのです。

 その後、希死念慮は消失しましたが、繰り返し転倒するようになり、表情も乏しくなりました。受診前までは杖を使用しなくても歩けていたのです。

 私たちは急激な変化に新たに処方された薬の副作用を疑いました。薬物療法の効果で症状が改善することもありますが、副作用で転倒したり意欲が低下することもあるのです。

 結局、医師の指示で服薬は中断されましたが、残念ながら症状は回復せず入院することになりました。

 高齢になると、少しのことにも過敏に反応して根拠のない不安や心配をして、抑うつ状態になる人が少なからずいらっしゃいます。

 もともと、不安感が強くうつ的な傾向にあったのか、それとも役割や居場所、人間関係の喪失体験などがきっかけで、そのような状態になったのでしょうか。

 不安や孤独を和らげるために、私たちが心がけているのは傾聴です。しかし、不安感の強い人は訴えが多いので、スタッフの気持ちに余裕がないと、途中で集中力が切れてしまいます。

 すると、聴いてもらいたい欲求が満たされず、フラストレーションを溜めて、さらに強く訴えるようになります。

 また、訴えがなくなったと思って安心していると、内にこもって妄想などに変わることもあります。そうなると、スタッフは疲弊し利用者の話を上の空で聞いて、負のスパイラルに陥ります。

 だから、効果的な傾聴をするためには工夫が必要です。

 相手をあるがままに受け入れ受容的な態度で共感することはもとより、最初に終了時間をお伝えしてお話を聴くのです。目安としては30分程度です。時間が来たら話の途中でも終了し、次の日程を決めます。

 話を聴いてもらえる人と場所があると思うと、それだけで利用者は安心します。

 メンタルに不調を抱える高齢者に薬物療法は大切ですが、同様に落ち着いて過ごせる場所や人間関係などの環境を整えることも欠かせません。

 それには、時間と傾聴スキルが必要になるので、気をつけないと速効性のある薬に頼りたくなります。

 だからこそ、人は人によって癒されることを忘れないようにするのです。


(注)事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。
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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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