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利用者同士の思いやりは、不可欠な「後方支援」

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【尊厳ある介護(115)】帰宅願望があり、スタッフに手をあげる利用者 心を開かせた出来事

公開日: 2020/12/16 (ソサエティ)

CC BY CC BY /WhitA

里村 佳子 (社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)

 「私は騙された。ここから早く出して」。

 少し前に入所された藤本定江さん(仮名89歳)の大きな声が聞こえてきました。

 急いで行ってみると、藤本さんが施設のドアを悲愴な面持ちで叩いています。傍には数名の介護スタッフがいて、外に出ないよう説得しています。

 藤本さんは自宅で一人暮らしをしていましたが、物忘れが進行し困ったことがあると、夜間でもお構いなしに近所の家を訪ねるようになりました。

 それを知った息子さんは、藤本さんと一緒に施設を見学し、本人も納得して入所されることになりました。

 しかしながら、入所初日自由に外出できないことを知ると、態度は急変しスタッフに手をあげるようになりました。また、一日中家に帰して欲しいと懇願されるので、介護スタッフは疲労困憊していたのです。

 これ以上施設に止めておくのは無理だと判断した介護スタッフは、叫んでいる藤本さんの手を取って外に出ました。



 すると、周囲には目もくれないで、同じフロアーにあるデイサービス(日帰りで、食事や入浴や体操などのサービスを提供する施設)を目がけて、走って行かれました。

 デイサービスの介護スタッフは、藤本さんの帰宅願望を知っていたので、快く受け入れて、利用者の座っている傍の席に案内しました。

 藤本さんは言われるままに座り、お隣の利用者に「私はあっちの施設が嫌なの。早く家に帰りたい」と、息せき切って訴えました。

 そこで、私が「息子さんの家に行きたいのですか?」と尋ねると、「私には息子なんていません」と、睨んでおっしやいます。

 「そうですか。私は息子さんとお会いしたことがあるのですが、勘違いなのでしょうか」と言うと、黙り込んで返事をされません。

 「以前絵手紙を習っていましたよね。一緒にしませんか」と話しかけると、「絵手紙なんて習っていません」と、取りつく島もありませんでした。

 ところが、困っている私を隣で見ていた利用者が藤本さんに向かって、「長い間ここに通って来ているけど、スタッフさんはええ人ばかりよ。一人で家にいたら寂しいけど、ここでおしゃべりして帰るのが私の楽しみ」と、助け舟を出してくれたのです。

 別の利用者も「何があったのか知らないけど、そんなにあちらの施設が嫌なら、こっちに来て私たちとお話しましょう」と、口添えしてくれます。

 「私は嫌なことがあったら、歌を歌って忘れるのよ。あなたも歌ったら」と言って、慰めてくれる利用者もいます。

 そんな周りの利用者の心遣いに安堵したのか、藤本さんは私にはいないと言った息子さんがいることや、習っていないと言った絵手紙が趣味であることを、打ち解けて話されるようにました。

 私は藤本さんの不安を取り除いて信頼を取り付けようと悪戦苦闘していましたが、心を開いてはくださいませんでした。

 でも、利用者たちはあっという間に藤本さんの心を和ませたのです。それは、不安や孤独を理解して共感したからでしょうか。

 それに比べ、私は早く藤本さんを落ち着かせたいという自分の思いが勝って、どんな言葉をかけても彼女の琴線には触れなかったのです。

 利用者から教えられたのは、これだけでありません。

 実は、「歌を歌って嫌なことを忘れる」と言われた利用者には、身体に不自然な傷やあざができていることがあり、虐待を案じていたのです。

 本当は、自分の方が孤独で辛い目にあっているかもしれないのに、他者を思いやる姿に、私は頭が下がりました。

 私たちは認知症利用者の知恵と経験には目もくれず、自分たちの力を信じて支援をしますが、それが空回りしていることに案外気付いていません。

 まさしく、私がそうでした。利用者たちの後方支援がなければ、藤本さんに受け入れてもらうことはできなかったのです。

 だから、視点を変えて私たちが前面に出るのではなく、利用者同士をつなげて関係性を創る支援にフォーカスしましょう。きっと、認知症の人の隠れた能力が開花するはずです。


(注)事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。
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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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