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認知症の初期診断は難しい

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【尊厳ある介護(122)】躊躇せずセカンドオピニオンを

公開日: 2021/03/24 (ソサエティ)

cc0 by Steinar Engeland cc0 by Steinar Engeland

里村 佳子 (社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)

 「夫が家に知らない人がいると言って、不安がるので困っています」。

 原口史子さん(仮名 84歳)は思いつめた表情で、夫の太郎さん(仮名85歳)を連れて施設にいらっしゃいました。

 相談員が太郎さんの病院受診の有無を確認すると、「近くの病院でアルツハイマー型認知症と診断された」と、お答えになりました。

 そこで、要介護認定の申請をして、介護保険サービスを利用するようにお勧めしたそうです。

 数日後、太郎さんは前かがみになって小刻み歩行で、施設にお見えになりました。

 「今日はお一人でいかがなさいましたか」と相談員が聞くと、「あなたにお話があって」と言われます。

 その様子から、私たちは太郎さんのアルツハイマー型認知症の診断に疑問を持ったのです。

 と言うのも、アルツハイマー型認知症の人の多くに、顕著な記憶障害や人・場所・時が分からなくなる見当識障害がみられるのですが、太郎さんにはそのような症状がないのです。
 
 記憶障害は軽度で、相談員の顔を認識できたり、道に迷わず施設に来ることができるのです。

 だから、アルツハイマー型認知症というよりは、レビー小体型認知症を疑ったのです。

 なぜなら、太郎さんの幻視やパーキンソン症状(前傾で小刻み歩行)はレビー小体型認知症の症状と一致していたからです。しかし、私たちは医師ではないので確信が持てませんでした。

 その後太郎さんの幻視は改善するどころかますます増悪し、悩んだ史子さんは、相談員の勧めで認知症専門医のいる病院に受診しました。すると、レビー小体型認知症と診断されたのです。

 実は認知症の初期診断は難しいので、太郎さんのようなケースが稀なわけではありません。

 自立している高齢者が対象の施設に入所している堀部宏之さん(仮名74歳)は、物忘れは少しありますが、生活する上で支障はありませんでした。

 ところが、いつも同じ時間に同じ服を着て食堂に来られ、テーブルのテッシュをポケットに入れて持ち帰ります。また、フロアーに唾を吐いたり、ゴミを階下に捨てたりするので、周りの利用者から苦情が出ていました。

 トラブルがある度にスタッフは注意をするのですが、何度言っても同じことを繰り返し態度は改まりません。時には逆切れをして大きな声を上げることさえあります。

 そんなある日事件は起こりました。

 同じ階の利用者が事務所に来て、「堀部さんが私の部屋に入って冷蔵庫のバナナを食べています」と、震える声で訴えたのです。

 スタッフは堀部さんに事実確認をしましたが、的を得た答えは返ってきませんでした。

 そのことを息子さんに報告すると、「自分の知っている父からは想像できない」と、顔をこわばらせておっしゃいました。

 堀部さんは長年会社勤めをして定年を迎えました。まじめで人に迷惑をかけるようなことはなかったそうです。

 息子さんはお父さんと一緒に受診し、アルツハイマー型認知症と診断されました。

 その診断名を聞いて私は違和感を覚えました。堀部さんは前頭側頭型認知症ではないかと疑っていたからです。

 前頭側頭型認知症の特徴は、決まった行動を繰り返す常同行動、社会性の欠如、人格の変化などです。

 堀部さんの同じ時間に同じ服装で食堂に来てテッシュを持ち帰ったりする常同行動、ゴミを階下に捨てたりフロアーに唾を吐いたりする社会性の欠如、人格の変化などはまさしく該当する症状なのです。

 実は認知症が軽度であれば、脳画像検査にはっきりとした委縮が見られなかったりするので、認知症を見逃したり、違うタイプの認知症や精神疾患などにまちがえられることがあるのです。

 誤診されると手遅れになったり、適切な治療が受けられなかったりする可能性があります。

 だから、症状が悪化したり、診断内容が腑に落ちない場合は、遠慮せず認知症疾患医療センターや物忘れ外来のある病院、認知症専門医などにセカンドオピニオンを受けることをお勧めします。

 それからしばらくして、堀部さんは体調を崩して入院されました。

 施設に戻ることはなかったので、前頭側頭型認知症であったかどうかは不明です。

(注)事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。
連載「尊厳ある介護」は当分の間休載し、不定期に掲載させていただきます。読者のみなさま、ありがとうございました。
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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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