4年前の流行語大賞にもなったカーリング女子日本代表の「そだねー」。先の北京冬季五輪では聞かれないなと思ったら、競技以外のことで注目されるのは本意ではないとして封印したのだという。自然に出てくる言葉を我慢するとは、それはそれで競技集中の妨げになったのでは、と昭和のオヤジはまたいらぬ世話を焼いてしまう。
「そだねー」と違って最近やたらと耳に障るのは、主に女性たちが発する「たしかに」という言葉だ。通常、相手がツボを突いた言説を展開した際、そのロジックに強い納得感を伝える場合に使われる。ただ、「ツボを突いた言説」などそうそうあるものではない。最近ではツボを突こうが突くまいが、しばしば「たしかに」が登場する。なぜか。
このセリフを巧みに使うスナックのママに聞いてみた。もちろん他の客がいない時だ。「考えたことなかったけど」としばらく間を置いた後、「まあ、あしらいの一種かもね。吞兵衛はくどいから。特にオジサンたちは肯定されれば喜ぶのよ」とのたもうた。
「でも『たしかに』はなんだか大げさじゃないですか。『そだねー』じゃだめですか」と問うと、笑いながら「それじゃ馬鹿にしているみたいでしょ」。「『なるほど』では?」。「『なるほど』より肯定感が強いでしょ、『たしかに』は。気が付かなかったことを言い当てられた感じ。お客さんも満足感を持つんじゃないの?」
う~ん、たしかに。さすがに人あしらいのキャリアが違う。この言葉がスナック発祥かと思うほどの分析である。いや吞兵衛でなくとも、筆者を含めて世のオヤジたちはスキがあれば知見を披露し、物事の由来や世の中の成り立ちを説きたがる。「たしかに」はそれに出くわした女性たちのあしらい術、マタドールのヌレータ(赤い布)なのだろう。
女性同士での会話にも「たしかに」は重用される。一言一言が致命傷になりかねない女性間の会話では、この言葉、納得していなくとも納得していることを装い、相手の承認願望に応える役割を負っているようだ。ただ、これだけ頻発されてしまうと言葉の本来持っていた重みが失せ、単なる場つなぎの相槌となり下がっているのが実情ではないか。
あしらい文句として重宝されるこの言葉が生き残るには、使用頻度を下げることだろう。会話の中で使うのは一度だけ。くだんのスナックのママによると、ここぞというときに、ゆっくりと噛みしめるようにつぶやくのがコツだそうだ。
『たしかに』 “納得”ではなく場つなぎの相槌 |
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【現代「要」語の基礎知識】頻発避け噛みしめてつぶやけ
公開日:
(ソサエティ)
闘牛士=ccbyManuel González Olaechea
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ゾルゲかわはら(コラムニスト)
現代社会を街場から観察するコラムニスト。金子ジムでプロボクサーを目指すも挫折。鮮魚卸売業、通信社記者、東大大学院講師を経て2019年からフリー
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