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『お答えを差し控える』 危機管理の時代象徴

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【現代「要」語の基礎知識(8)】NHKまで借用 問答を拒否するタチの悪さ

公開日: 2021/06/25 (ソサエティ)

Reuters Reuters

ゾルゲかわはら (コラムニスト)

 菅義偉首相の得意のせりふは「お答えを差し控える」。就任早々の昨年末の臨時国会では、わずか10日間の質疑で100回以上使われたそうだ。官房長官時代、記者に向かって放つ彼の常とう句は「ご指摘は当たらない」だった。さすがに首相になって野党議員を相手に、そうつっけんどんにもできないと思ったのか、代わって連発するようになったのがこの言葉である。

 理由を問うと見事に木で鼻をくくってこう答える。学術会議の任命拒否問題では「人事に関することだから」、河井元法相夫妻の現金バラマキ問題や吉川元農相の現金授受疑惑は「捜査に関することなので」。このほか「仮定の質問には答えられない」とする場合も多い。あとはどこから攻めても「差し控える」のオウム返し。問答が成立しないのだから、閣僚席からヤジや挑発を繰り返した前首相よりタチが悪い。

 この種の発言者には、前々回の「誤解を招いた」に似た2つの罪がある。一つは特異な事柄を一般論に回収している点だ。「人事」や「捜査」の経緯などはたしかに通常はおいそれと外に出すべきものではない。だが、それは一般論であり、当該の案件はその域を超えているとみなされているからこそ追及を受けている。その責任を負うべき党や行政職のトップが一般論を盾に説明を拒むのは詭弁である。
 
 もう一つは、誰かに配慮して説明を自重しているように見せかけること。「申し上げられない」ならまだ分かる。しかし「差し控える」は、言いたいのはやまやまだけど迷惑が掛かる人がいるから我慢するという含意がある。自分の都合で言いたくないだけなのに「差し控える」。この言葉の使い手には他者への気遣いをほのめかして自らの責任を回避しようとする心の卑しさが付きまとう。

 菅首相の言葉にはもともと説得力が乏しい。地方出身の菅首相は喋りが苦手なだけで、くだんの言葉にも特段の他意はないという同情論もある。たしかに「言語明瞭、意味不明」を自認した竹下登、「アーウー」総理と呼ばれた大平正芳なども地方出だった。

 だが、彼らは菅首相とは逆である。彼らの分かりにくい物言いには、考え抜いた結果を何とか伝えたいという苦悩がうかがえた。うなり声にも似た感嘆詞には、異論や反対意見と真正面から向き合うがゆえの葛藤があった。翻って、菅首相の乾いた言葉にはそうした心の汗がうかがえない。伝わってくるのは、この場をどう乗り切るか、敵に得点を与えずしのぐかといった目先の功利だけだ。

 気になるのは「差し控える」が危機回避のための便利な言葉として一般に広がり始めていること。総務官僚を接待した東北新社が「個別の接待については回答を差し控える」など、この言葉は企業広報の間でマスコミのあしらい文句として広く重用されつつある。

 いやいや、あしらわれたマスコミ側も同類である。五輪反対の抗議の音声を消去して放送したNHKは、その理由を問う取材に対し「個別具体的な対応についてはお答えを差し控えたい」とのたもうた。追及する側が、同じ穴のムジナになってどうするのか。

 この言葉の蔓延は、「危機管理」という企業文化の隆盛と軌を一にしているようにみえる。説明を尽くすことよりダメージコントロールの巧拙が評価される時代。人間社会の尺度が市場原理に近付いているあかしなのかもしれない。
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ゾルゲかわはら(コラムニスト)
現代社会を街場から観察するコラムニスト。金子ジムでプロボクサーを目指すも挫折。鮮魚卸売業、通信社記者、東大大学院講師を経て2019年からフリー
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