地球温暖化を防ぐための太陽光、風力発電などの「グリーン投資」が流行となっている。日本政府も菅首相が先般、2050年までにゼロ・エミッションを達成すると公約した。トランプ政権からバイデン政権に代わって米国も環境政策を目玉にしている。欧州も欧州委員会は7,500億ユーロに及ぶコロナ対応の経済政策で大きな部分を気候変動対策に充てている。
世界最大の投資ファンドであるブラックロックのCEOを務めるラリー・フィンク氏は「株式市場は持続的な投資への構造的転換(tectonic shift)のまさに途上にある」と述べている。つまり気候変動対策を中心としたSDG投資がマーケットのテーマになっているということだ。
モーニング・スター社によると、気候変動関連投資額は2019年中の1,650億ドルから2020年中に3,500億ドルへと倍増している。ブルームバーグ社の推計でも、企業、政府が再生エネルギーや電気自動車の開発に投じた資金は2020年中で5,000億ドル(52兆円)に達している。
こうした投資ブームでグリーン企業の株価は株価収益率(PER)でみて市場平均をはるかに上回る「グリーン・バブル」の様相を呈している。S&Pの「グローバル・クリーン・エネルギー指数」では30社のクリーン・エネルギー企業の株式を含めている。
株価は昨年だけで2倍、株価収益率(PER)は40倍以上と米国の一流企業平均のほぼ2倍となっている。英国、フランス、日本など温室ガスの排除にコミットした国が増えるにつれて、ESG投資の熱心な推進者たちは、「今後30年にわたってグリーン投資が飛躍的に増大する」と主張して現時点におけるPERの高さは問題にならないと論じる。
しかし、一部の企業やアナリストは市場が過熱していると警鐘を鳴らしている。
例えば、太陽光発電の業界では企業の新規参入が続き、多くの企業が業績悪化に見舞われながら株価だけは数倍に上がるといったバブル的な症状を呈している。
今、注目されているのは風力発電だ。デンマークの政府系のエネルギー企業であるオーステッド社は石油・ガス事業を売却する一方で洋上風力発電に力を入れてきた。デンマーク最大の洋上風力発電所を建設したほか、イングランド北東部沖合に180万キロワットに達する世界最大の洋上風力発電所の建設を受注した。
将来性の高さが見込まれる「エネルギー部門のアップル」として株価は3年間で3倍に達している。オーステッド社は、米国のバイデン政権が洋上風力発電を進めていくように今後とも「価値を創造する投資機会」が続く、と強気である。
こうしたグリーン・エネルギー関連の株式投資はSDG投資を志向する投資マネーの流入によって支えられている。モーニング・スター社は、昨年一年だけで2,300億ドルの株式投資資金が流入したと推計している。
ESG投資の草創期には数少ない優良企業に投資が集中していた。しかし、2019年後半頃からレバレッジを利かしてベンチャー企業にも投資を広げている。
米国のバイデン大統領が米国経済の脱炭素社会実現のため数兆ドル規模の投資を実行すると宣言し、中国の習近平国家主席が2060年までに脱炭素社会を実現すると公約するなど、各国の政策もこうした需要を後押ししている。
強気姿勢の投資家は短期的な収益悪化によって投資を控えるようなことはしない。洋上風力発電でも現存設備や建設中の台数で投資を決めるようなことは全く眼中にない。オーステッド社や他のクリーン・エネルギー企業が今後30年くらいをかけて化石燃料をいかに取り除いていくか、に賭けている。
しかし、警戒的なスタンスを強めているアナリスト達もいる。洋上に大規模設備を据え付けること自体が環境悪化をもたらすという批判が強まることも考えられる。風車の回転がもたらす不気味な音も問題になるかもしれない。
経済面では、エクソン、BPなど超大手の石油メジャー企業などが多額の海底設置権を支払ってでも風力発電事業に乗り出してくれば、資本力にものを言わせてベンチャー企業などをあっという間に駆逐する可能性もある。
言うまでもなく、実際の売上げ・収益から見て株価が割高というのはアマゾン、アップルなどの時価総額1兆ドルを超えるテック企業を想起させるものだ。最近では電気自動車のテスラ社だ。
グリーン投資は伸びていくし、社会にとって必要でもある。ただ、テック企業も厳しい整理淘汰で残った企業は数の上では僅少である。猫も杓子もグリーン投資であればすべてバラ色と思い込んでいる投資家に警鐘を鳴らすべき時期に来ていると思う。