今月5日、渋谷区で同性同士のカップルに、「パートナーシップ証明書」を交付するサービスが始まった。しかし、サービスの開始から約2週間たった19日現在、証明書を発行したカップルは、たった「1組」だけにとどまり、申請中のカップルもいないことが分かった。
この「パートナーシップ証明書」は、今年4月1日に施行された「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(通称:パートナーシップ条例)の項目の1つで、同性同士のカップルに、異性のカップルと同等程度の権利を、自治体が認めるというものだ。
交付が1件にとどまっている理由の一つは、証明書を申請する際にかかる費用が、非常に高額だからだ。区のホームページによると、証明書の発行にかかる証明手数料は、300円とされている。しかし、証明書を発行するために必要な書類を作成するのに、場合によっては10万円ほどの費用がかかってしまうというのだ。
証明書を発行するにあたって、「公正証書」という書類が必要になる。法律の専門家である公証人が公証人法・民法などの法律に従って作成する公文書である(日本公証人連合会)。この書類は、カップルの二人の「パートナーシップ」を証明するものだ。証明書の発行には原則、「合意契約書公正証書」と「任意後見人契約に関わる公正証書」という2つの公正証書が必要とされている。この二つの公正証書の発行に、場合によっては、5万円~10万円近くの費用がかかってしまうという。
「合意契約書公正証書」とは、「両当事者が愛情と信頼に基づく真摯な関係である」(渋谷区HP)など、カップル二人の愛情を証明するもの。「任意後見人契約に関わる公正証書」とは、パートナーの片方が、身体的または判断能力が低下した際に、もう片方のパートナーが相手に代わって意思判断を下すという契約を双方で結んだものだ。この2つの公正証書を公証役場に提出することで、「パートナーシップ証明書」は公的な効力を発揮することになる。
一方で、同月5日から、同じく同性同士のカップルの「宣誓」を受領した「受領書」を発行している世田谷区。11組のカップルが受領書の発行申請を行い、9組が受領書を受け取り済みだという。同区では、条例を策定していないため、法的効力はないが、受領書の発行には費用は一切かからない。
渋谷区は現在、特定の理由をもつカップルは、特例として「合意契約公正証書」の提出のみでも、証明書の発行は可能という措置を取っている。しかし、その場合でも2万円ほどの費用がかかってしまう。