個人の住宅の空き室・空き家を宿泊施設として貸し出す民泊。ネットで民泊の仲介を行う業者も増加しており、その動きは「ネット民泊」とも呼ばれる。
昨年10月に、全国に先駆けて民泊条例を制定した大阪府。政令指定都市、中核市の6市(大阪、堺、高槻、枚方、豊中、東大阪)を除いた37の市町村が、条例の適用対象となっていた。
しかし、37の市町村のうち86%にあたる32市町村が、条例参加に消極的なことが分かった。大阪府によると、今回条例の不参加を決めたのは、4市(吹田市、池田市、交野市、松原市)。条例に懐疑的な狭域参加は、28市町村(茨木市、八尾、河内長野市、岸和田市など)にのぼった。結果、広域参加を決めたのは5市町(守口市、大東市、泉佐野市、能勢町、忠岡町)にとどまった。
広域参加・狭域参加の違いはどこにあるのだろうか。条例制定後、対象となっている市町村には府から「①市街区域のうち工業専用地域を除く全地域(広域参加)」、「②市街区域のうちホテル・旅館の建築が可能な地域のみ(狭域参加)」、「③条例不参加」の選択肢を提示された。
市街化区域とは、すでに住宅地として開発されている地域または、今後10年間で優先的に開発される地域のことである。①を選んだ5市町は、住宅街や繁華街すべての地域で民泊営業を認めている。一方、②を選んだ市は、住宅街での民泊営業は認めないが、駅の近くにあるような繁華街に限って民泊を認めるということだ。
また、③の不参加を決めた吹田市・池田市などは、民泊利用者によるゴミ・騒音のトラブルを避けたいとの考えがあったと思われる。また、関東の一部のマンションでは、外国人観光客が、民泊を行っているマンションにバスで乗り付けるというケースもあった。その上、民泊施設において重大事故も起こっている。昨年東京都渋谷区では、民泊利用者の死亡事故も発生した。そうした住民の不安も考慮したようだ。
狭域参加を選んだ茨木市の担当者は「条例に参加することで、野放しになっていた民泊を指導することはできる。ただ、利用者のニーズがあるかは分からない」と語っている。住宅地を除外したのは、住民からの反発が起きかねないと判断したようだ。
その中で参加を決めた要因は2つある。民泊業者の一応の管理化と、他の自治体との関係だ。府の条例に参加すれば、市内で行われる民泊営業に関し、府から一定の指導が入る。今現在、「違法」とされている民泊営業を、府によって管理してもらえるのだ。また、「不参加」の立場を取ってしまうと、今後増加する観光客の取り込みに、遅れを取ってしまう。そのため今回は、地域を狭めて安全策を取るという対応で、参加を決めたのだ。
これは、民泊の主要な供給地帯である住宅地域の大部分を除くことで、実質的に条例を骨抜きにしたということだ。狭域参加を決めた他の自治体でも、同じような考えがあったと、ある市の担当者は語る。自民党系の首長と、府知事との都構想を巡っての政治対立が響いたのではないか、との声もある。
一方で、参加を決めた自治体は、どのように考えているのか。規模は中堅ながら、参加を決めた自治体がある。大東市は、昨年9月に「大東市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、観光客の誘致に励んでいる。今回の参加は、この流れを汲んだものだ。
今回の大阪府の条例は、国の戦略特区法に則ったものだ。府は今後、特区法で定められた「7日以上の宿泊」という規定の短縮を国に掛け合っていくという。しかし、この規定は、ホテル・旅館業界から求められて設けた規定のため、変更は容易ではない。
今月15日には、大阪市が独自の民泊条例を制定した。独自に条例が必要な6市でも動きが出始めている。
【大阪府民泊条例を巡る状況】
①広域参加(5市町) 守口・大東・泉佐野市・能勢・忠岡町
②狭域参加(28市町村) 茨木・八尾・寝屋川・河内長野・岸和田・和泉・
門真・箕面・富田林・羽曳野・貝塚・摂津・泉大津・柏原・藤井寺・泉南・高石・大阪狭山・四条畷・
阪南市・熊取・島本・豊能・岬・河南・太子・田尻町・千早赤阪村
③条例参加せず(4市) 吹田・池田・交野・松原
◎独自条例が必要(6市) 大阪(済)・堺・高槻・枚方・豊中・東大阪