九州電力の川内原子力発電所1号機(鹿児島県)が8月10日にも再稼働するのに続いて、同2号機、関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県)、四国電力伊方原子力発電所3号機(愛媛県)が今年後半から来年にかけて相次ぎ再稼働に踏み切る見通しだ。
なぜここにきて再稼働が相次ぐのか。最大の理由は、地球温暖化対策だ。今年末パリで開かれるCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で、20年以降の温室効果ガス(GHG)削減のための国際的な枠組みが発足す予定だ。
日本は30年にGHGの排出削減を2013年比で26%減を公約している。この目標達成のためには30年の電源に占める原発比率を「20~22%」まで高める必要があると判断しているからだ。
第二の理由は、政府が「原発ゼロでも、やっていける」という国民意識の高まり、定着を恐れていることだ。11年3月の福島原発事故から今日まで4年間、原発は事実上ストップしている。正確に言えば、12年7月に大飯原発の一部再稼働が認められたが。翌年の13年9月に運転中止になり、それ以降今日まで完全停止状態が続いている。
原発ゼロでも、経済活動に大きな影響がなく、一般の家庭生活も多少の電気代値上げを甘受すればさしたる支障も生じていない。「原発ゼロ結構」、こんな動きが定着してしまうことを政府は恐れている。
このため、原子力規制委員会のお墨付きをもらった原発の稼働を一刻も早く実現させ、「原発なくして日本経済は成り立たない」という原発事故以前の状態を取り戻したいとする政府の強い願望がある。
だが、今の段階で原発再稼働がなし崩しで進められることについては、様々な疑問、課題が残されており、拙速の感を否めない。
まず、原子力政策は誰が決めるのか、という根源的な問題がある。政策立案に当たって、原発のような専門知識が必要な分野では、専門家が良しとした決定には、国民は黙って従え、という政府の驕りに似た姿勢がある。だが「原発の安全神話」が崩壊した今、専門知識が必要な分野でも、国民各層の意見が反映される新しき政策決定メカニズムが求められる。
政府が決めた2030年の電源構成も「原発在りき」を前提にした極めて恣意的な内容になっている。たとえば、再生可能エネルギーへの不信感が強過ぎること。30年の再エネ比率は、原発よりわずかに高い「22~24%」を掲げているが、再エネに熱心なドイツや北欧諸国などと比べると大きく見劣りがする。
本来なら2050年、2100年の中長期展望の中で、2030年の電源構成を考える必要があり、その場合は原発ゼロにしてその分をすべて再エネで賄う姿が望ましい。だが、そのような展望はなく、COP21に合わせた場当たり的な電源構成だ。
原発再稼働によって排出される「高レベル放射性廃棄物」(核のごみ)の最終処分方法も定かでない。原発を抱える欧米先進主要国でも、核のごみの処理には頭を抱えている。増え続ける核のごみの処理は、次世代の科学技術の発展に委ねるべきだといった無責任な発言さえ飛び出している。小泉純一郎元首相が原発再稼働に強く反対している理由もここにある。さらに政府が説明する安い原発の発電コストには事故コストが含まれていない。
原発再稼働に当たって検討しなければならない課題が山積しているにもかかわらず、見切り発車的な再稼働は、日本の将来に大きな禍根を残すことになるだろう。
なぜ? 相次ぐ原発再稼動 |
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【緑の最前線⑦】日本のエネルギー政策を考える①
公開日:
(ソサエティ)
核燃料の装填作業中の川内原発(2015年7月)=Reuters
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三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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