政府が東京電力福島第一原発の事故で出た汚染土壌などを中間貯蔵施設へ搬入する作業を開始してから5ヶ月が過ぎた。2011年3月11日の事故発生からすでに4年が経過しており、遅きに失した感がある。だが、福島各地の仮置き場に大量に保管されている汚染土壌の処理が原状回復の大前提なだけに搬送が始まったことは歓迎できる。以下は動き出したばかりの中間貯蔵施設を7月下旬、実際に訪問した報告だ。
中間貯蔵施設の全体の管理は政府(環境省)が全責任を負い、日常の業務は政府の委託を受けて、中間貯蔵・環境安全事業(株式会社、略称JESCO)が実施する。JESCOは株式会社だが、株式のすべてを政府(財務省)が保有する国営企業だ。今回の中間貯蔵施設の現場視察はJESCOの特別の配慮で実現した。
中間貯蔵施設は事故を起こした第一原発を囲む大熊町と双葉町にまたがる16平方キロの敷地。放射線量が高く、帰還困難地域に指定されている。
JESCOは福島県内43市町村の仮置き場に保管されている汚染土壌などを中間貯蔵施設に安全に搬入するための総合管理システムの運用拠点として、昨年12月にいわき市に「中間貯蔵管理センター」を開設した。現在約30名の職員が汚染土壌の搬送状況をGPSシステムで一元管理する監視業務や貯蔵施設に持ち込まれた汚染土壌の保管処理が計画通り運んでいるかなどをチェックするために交代で職員を現場に派遣している。
いわき市の管理センターから大熊町にある貯蔵施設まで自動車で約1時間の距離だ。太平洋岸沿いの道を北上し、楢葉町、富岡町などを経て、大熊工区(施設の大熊町側の作業区)まで行く。途中、天神岬に立ち寄った。海岸近くの仮置き場に黒い袋に入れられた大量の汚染土壌が積み上げられ、ブルーのビニールシートで覆われているのが見えた。
大熊工区までの沿道には、こぎれいな民家、レストラン、コンビニ、ガソリンスタンドなどが点在していたが、人影は全くなかった。この地域は居住制限区域や帰還困難区域に指定されており、一般人の立ち入りが厳しく規制されている。事故発生以前は様々な家族の団らん、外食客、買い物客などで賑わっていた地域が一瞬の原発事故で無人の街に変貌させられてしまった姿に胸が痛んだ。
大熊工区では、入り口で警備に当たる警察官に本人確認の身分証明書(運転免許証)を求められた。工区の一角で、放射線遮断のための白いタイベック(高密度ポリエチレン不織布)で全身を包み込み、保護マスク、ゴム手袋を付け、長靴に履き替え、作業現場に向かった。30度を超える炎天下で、汗が吹き出した。作業現場では10トントラックで貯蔵施設に運び込まれた汚染土壌(約1トン袋詰め)をクレーンで移し替える作業が続けられていた。作業員の服装も、タイベック姿なので夏場の作業はかなりの重労働のように思われた。
作業現場では、仮置き場からトラックで運ばれてきた汚染土壌袋の個数チェック、さらに搬送トラックは積み荷を降ろした後、スクリーニング場で放射線量のチェックを受ける。汚染状況が基準を上回れば、隣にある洗車場で汚染物質を取り除かなければならない。
現在、大熊工区、双葉工区に運び込まれた汚染土壌袋は合わせて6千袋程度だが、最終的に運び込まれる量(最大2200万㎥)の1%にも達していない。汚染土壌が運び込まれた後の作業としては、①搬入された土壌や廃棄物の重量や放射線量を測定し分別・貯蔵する、②草木などの可燃物は減容化(焼却)する、③放射性セシウム濃度が高い焼却灰の特別貯蔵、などが主な仕事になるが、まだこの段階には至っていない。
中間貯蔵施設が本格的な業務を展開するための最大の難問は2000人を超える地権者との用地交渉がほとんど進んでいないことだ。仮置き場にある大量の汚染土壌の搬送も始まったばかりで、今後搬送過程で地域住民との予期しない問題、課題も起こってくるかもしれない。前途多難であることには変わりがないが、小さな一歩が始まったことは歓迎したい。これがきっかけになり大きな二歩、三歩につながり、福島の一刻も早い原状回復、再生につながることを願う。
中間貯蔵施設 現場からの報告 |
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【緑の最前線⑧】福島原発事故の汚染土壌が運び込まれる大熊町、双葉町
公開日:
(ソサエティ)
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三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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