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EUの原発は「グリーン」との評価に批判続出

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【緑の最前線(103)】グリーンエネルギーに分類は強引過ぎる

公開日: 2022/02/09 (ワールド, ソサエティ, 気象/科学)

【緑の最前線(103)】グリーンエネルギーに分類は強引過ぎる

三橋 規宏 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

 EU(欧州連合)委員会は先週初め、原子力と天然ガス発電を「グリーン電源」に分類する「タクソノミー」法案を公表した。一定の条件のもとで原子力と天然ガスを脱炭素に貢献するグリーンエネルギー類に組み入れ、支援・拡大を目指す法案だ。

 タクソノミーとは分類法のこと。EUタクソノミーとは企業の経済活動が地球環境にとって持続可能であるかどうかを判定し、グリーンな投資拡大を促すEU独特の仕組みである。

 EUが2050年までに温室効果ガスの排出量、実質ゼロ(カーボンニュートラル)を達成するため、欧州委員会が19年末に発表した「欧州グリーンディール」の中核となるアイデアだ。

 原発については高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の安全処理の場所や資金計画を要件とし、新増設は45年まで、運転延長は40年までに各国規制当局の認可を得ることが条件になる。天然ガスについては1kw(キロワット)時の二酸化炭素(CO2)排出量が270グラム未満、30年までに建設許可を取得し、石炭火力の置き換えなどに限るとしている。

 EU内部には原発による温室効果ガス排出削減の貢献に異論があるが、原発を外せば50年、カーボンニュートラルの実現は不可能になる。この際、逆に原発をグリーンエネルギーに組み入れることで、カーボンニュートラルを確実にしたいとの思惑がある。

 一方、天然ガスについては、化石燃料とはいえCO2排出量は石炭の半分以下で少なく、EU 内の石炭火力を天然ガスに置き換えることで、CO2削減に貢献できるとの判断がある。EUは昨年後半から今年にかけてエネルギー危機に見舞われ電力ガス価格の上昇,インフレの高進で家計や経済が圧迫された。

 今すぐ、天然ガスを廃止すれば、経済活動に与える影響が大き過ぎる体験をしたばかりだ。一時的、過度期の措置としてグリーン分類に入れることは一つの選択肢だとする見方もあるようだ。

 原発、天然ガスの導入については厳しい条件がついているとはいえ、欧州委員会がグリーンエネルギーに分類したことについては、足元のEU加盟国内部にも大きな波紋を投げかけている。国によってエネルギー事情、エネルギー源の評価が異なるからだ。

 原発についてはドイツ、オーストリア、デンマーク、スペインなどが反対、天然ガスについてはオランダ、デンマーク、オーストリア、スウェーデンなどが反対だ。一方、フランス、フィンランド、東欧諸国などは欧州委員会案に賛成している。

 オランダなどが天然ガスに反対なのは、排出量が石炭より少ないとはいえ、CO2を発生させる化石燃料だからだ。温暖化防止対策のため将来は全廃が望ましいと考えている。

 これに対し、原発の評価は複雑で深刻だ。ドイツなどに代表される反対理由は原発が科学的に見て完成された技術ではなく、不完全な技術だとする判断が根底にある。1986年4月、当時のソ連領、現ウクライナでチェルノブイリ原発事故が起こった。

 当時新聞社の特派員としてロンドンに駐在していたが、爆発により高濃度の放射能を含む大気が風に乗り欧州主要国の頭上を流れ、ドイツを含め欧州各国に大きな不安を与えたことを鮮明に覚えている。

 2011年3月には東日本大震災が発生し、東電福島第一原発が破壊される事故が発生した。大量の放射性物質が周辺地域に流出、飛散、拡大し、深刻な放射能汚染被害をもたらした。16万人を超える人々が住処を追われた。チェルノブイリも福島も汚染された地域の回復はほとんど進んでいない。

 原発は順調に稼働している時は、便利なエネルギーだが一度事故を起これば、取り返しがつかない被害を引き起こす。ドイツが脱原発に踏み切ったのは福島原発事故が契機になった。

 原発にはもう一つ深刻な問題が残されている。原発稼働によって排出される高レベル放射性廃棄物の最終処分場の適地がほとんど地球上に存在しないことだ。現状ではフィンランドとスウェーデンの2カ所だけ。放射性廃棄物を金属の容器に入れ、地下500㍍の岩盤に粘土と埋め込み、最低10万年保管する仕組みだ。こんな適地は地球ひろしといえどもほとんど存在しない。

 原発がグリーンエネルギーと評価され、今後、アジアやアフリカ、南アメリカなどの途上国が我も我もと原発の新増設に踏み切れば、核のゴミが世界中にあふれ、将来世代の生存に大きな脅威になるだろう。想像するだけでも背筋が寒くなる

 欧州委員会が公表した「EUタクソノミー法案」は今後、EU理事会(加盟国の閣僚級会議)と欧州議会(加盟国の有権者代表で構成)で審議される。EU理事会の場合は20カ国以上の賛成、欧州議会では65%以上の議員が賛成にまわれば成立するが、なお流動的である。

 EUはこれまで温室効果ガスの排出削減を定めたパリ協定の推進で指導的役割を演じてきた。特に科学的知見を踏まえたEUの取組みを模範として多くの国が努力してきた。そのEUが突然手のひらを返すように、原発と天然ガスをグリーンエネルギーに分類するのはあまりに強引過ぎで無理がある。

 安全性や温暖化対策上将来は廃止すべきエネルギーだが、今突然廃止すると日常生活や経済活動に大きな支障となるため、好ましくはないが一時的、過度期のエネルギーとして受け入れざるを得ないというグレーゾーンのエネルギーとして明確に位置づけて分類し直すべきだろう。
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三橋 規宏(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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