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混迷するコロナ禍対策、「地球」と共存の知恵が欠落

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【緑の最前線(80)】地球環境学の3つの視点

公開日: 2020/05/11 (ソサエティ)

Reuters Reuters

三橋 規宏:緑の最前線 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

 新型コロナウイルスの感染症は地球環境学の分類でいえば、食中毒や大気・水質汚染,公害病などを扱う環境衛生学に属する。当然、対策の処方箋も地球環境学の視点が重視されなくてはならないが、日本の場合この視点が著しく欠けている。新型コロナウイルスの突然のパンデミック(世界的な大流行)に慌てふためき、対策も場当たり的な対症療法に終始しているのが現状だ。

 ▽一つの地球と折り合える知恵

 地球環境学の基本的な考え方は大きく3つある。第一は「一つの地球」と折り合える生き方の追求だ。経済活動の規模を測定する一つのアプローチとして「エコロジカル・フットプリント」がある。経済を発展させ、豊かな生活をするためには農業や漁業を営む、工場を造る、道路や鉄道を敷設する、住宅を造るなど様々な方法で自然の土地や海洋を利用する。その表面積を合算したものが豊かさを得るために犠牲にした(踏みつぶした)自然面積(エコロジカル・フットプリント)と定義する。

 地球は有限の惑星である。地下資源は発掘し続ければやがて枯渇してしまう、有害物質を排出し続ければ様々な公害病を発生させる、化石燃料の大量消費は地球温暖化を加速させ、異常気象を深刻化させる、野生生物世界に過度に踏み込めば、人間社会に存在しない悪性ウイルスの感染を引き起こす。

 一つの地球と折り合える生き方とは地球の限界を踏まえた生活をすることにほかならない。エコロジカル・フットプリント(詳しく知りたい方はこちら)の研究者による試算によれば、一つの地球で暮らせたのは1980年頃までだった。それ以降は人間活動が地球の限界を超えてしまい、エコロジカル・フットプリントは拡大の一途を辿っている。2000年頃には1.2個の地球が必要な状態だった。もし世界の人々がアメリカ人並みの生活を求めれば、地球が5.3個、日本人並みの生活なら2.4個の地球が必要になるという。

 地球の限界を突き抜けてゴリ押しすれば地球から様々な反撃を受ける。今回の新型コロナ禍の背景には地球の限界を大きく超えた経済活動に主要な原因があることを肝に銘ずべきである。頻発する異常気象や今回のコロナ禍は地球の限界を超えた人類への警告として受け取るべきだろう。

 持続可能な一つの地球を維持するためには、地球に住む私たち一人一人が「地球市民」の意識を持たなくてならない。コロナウイルスの感染拡大を防ぐためには3密(密閉、密集、密接)が必要だ。多くの人が守っているが、一部には「自分一人だけなら・・」と抜け駆けをし、「感染覚悟でパチンコをしている、それがなぜ悪い」などと開き直る者がいる。

 地球市民に必要なマナーは、「地球的視野で考え、足元から実践する」ことだ。そのためには利己主義ではなく利他主義の発想が必要だ。他人に何かを求めるのではなく、まず自分が地球の悪化につながる行為を自制、節制することだ。それが回り回って持続可能な地球に貢献するという意識を持つことは並大抵なことではない。

 そんな「理想論」、「きれいごと」を並べても現実の世界では通用しない。人類の歴史を振り返えれば、個人レベルでは利己主義、国家レベルでは「自国第一主義」を追求することで維持されてきた。そのやり方を変えることなど出来るはずがないと考えている人は少なくないだろう。だがその考え方を改めない限り大切な地球を持続可能な姿で維持することができない。そこまで追い込まれている。

▽バックキャスティング思考

 第二に必要な考え方はバックキャスティング思考である。激動の時代には過去のやり方を踏襲していては衰退してしまう。押寄せる変化に対し基本路線は従来のまま変えず微調整で対応すると、進むべき方向を間違え袋小路にはまり込んでしまう。地球温暖化対策で石炭火力発電の全廃が世界の潮流になっている中で、日本だけが新増設を積極的に推進する姿勢が国際社会から批判されている。戦後の石炭火力発電重視の政策を転換できず、ずるずる今日まできてしまった結果である。

 今回のコロナショックについても同様な指摘ができる。地球の限界を超えたことで人間社会に存在しなかった様々な感染症が発生している。最近の事例で言えば、重症急性呼吸器症候群(SARS、2003年)、中東呼吸器症候群(MERS、2014年)が猛威を振るった時、中国、韓国、台湾、シンガポールなどは多くの感染者、死亡者を出した。

 この時の苦い経験からこれらの国・地域では感染症に対する周到な準備をしてきた。これに対し感染者、死亡者ゼロの日本は「対岸の火事」として傍観し、「日本は別だ」として準備を怠ってきた。この準備の遅れがPCR検査の遅れ、医者、看護師など医療従事者、医療機器・機材不足、さらに貧弱な患者受け入れ施設体制の温存など様々な問題を発生させ、国民に不安を与えた。

 バックキャスティングとは、将来の望ましい姿、予想される最悪の事態を想定し、そこから現在を振り返り、望ましい姿に近づけるため、あるいは最悪の事態を回避するため、いまからどのような対策、準備を進めればよいかを政府の政策として事前に周到に検討し、それに沿って準備を進めていく手法のことである。

 この手法を取り入れていれば、今回のコロナ禍に対しても十分対応できたはずだ。日本の政策は、これまで過去のトレンドを将来に引き延ばし、変化に対応しては微調整で対応するフォアキャスティング手法を採用してきた。このため大きな時代の変化に対応できなくなっている。

 地球の限界に突き当たってしまった今日、地球温暖化対策、感染症対策などもバックキャスティング思考で事前に万全の準備を積み重ね、危機に対応していく政策に切り換えていかなくてはならない。 

▽サーキュラーエコノミー思考

 地球環境学の3つ目の視点はサーキュラーエコノミー(循環型経済)思考だ。豊かな生活を求めて経済発展を求めた結果、地下資源の多くが掘り尽くされてしまった。世界各地の森林が伐採され農地や工場・住宅地などに転用された結果、多くの森が失われ、生物の多様性が損なわれてしまった。その結果、人間社会に存在しなかったウイルスが人間に感染し暴れ出した。

 ポスト「コロナ禍」の経済は、それまでの資源・エネルギー多消費型経済からサーキュラーエコノミーに転換する必要がある。

 サーキュラーエコノミーに転換するための第一条件は原則として地下資源の発掘を止め、地上資源を有効に活用することだ。鉄、銅、アルミ、ニッケルなどの地下資源の多くは道路、鉄道、様々な建造物、さらに自動車,船舶、航空機、テレビやパソコンなどの製品使われている。

 これらを総称して地上資源と呼ぶ。地上資源は寿命がくれば廃棄物になる。その廃棄物の中から貴重な金属資源を取り出し再利用する。これまでの経済発展によって、地上資源は十分過ぎる程蓄積されている。わずかに残された地下資源は将来世代に残しておく配慮が必要だ。

 第二の条件は再生可能(自然)エネルギー,水素エネルギーの積極的な活用だ。18世紀後半から始まった産業革命は石炭、石油などの化石燃料に支えられてきた。大量に消費された化石燃料が地球温暖化の主因になっている。第二次世界大戦後は原子力発電の役割が高まった。

 原発は発電中にCO2を発生させないが、一度事故起こすと,放射性物質を大量に発生,発散させ、周辺住民に多大の被害をもたらす。チェルノブイリ原発事故、東電福島原発事故が動かぬ証拠である。近い将来大地震の発生が予想される日本では深刻な原発事故の発生が危惧される。

 日本の場合、地球環境を悪化させないためには、太陽光、風力、バイオマス、地熱など多様な自然エネルギーを中心に水素エネルギーを併用し、分散型の地産,地消型のエネルギー供給体制を早急に構築しなければならない。人口の東京一極集中型の都市構造を改め、人口の地域分散も欠かせない。今度のコロナ禍も東京や大阪などの大都市の感染者が地方に感染者を広げる役割を果たしている。

 サーキュラーエコノミーに求められる第三条件は,自然の回復である。20世紀後半の産業革命から始まった世界的な近代化、工業化のうねりの中で、世界中の森が大量に伐採され、生物の多様性が失われてしまった。

 自然回復の手段として森林の復活は急務である。木材は再生可能な資源で、計画的に植林すれば木材資源は再生可能な資源になる。歴史的にみれば経済発展に伴って金属資源やプラスチック資源が木材資源に置き換わったが、これからは木材資源が金属資源やプラスチック資源に置き換える努力が求められる。それを可能にする様々な技術が開発されている。

 ポスト「コロナ禍」の世界が持続可能な「一つの地球」を前提に動き出せば、これまでとは異なるが、活力ある安定した経済社会の新しい営みが可能になるだろう。
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三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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