住民登録をしていない「住民」や、ふるさととつながりをもちたい「元住民」などを対象に第二の住民票といえる「ふるさと住民票」の登録を始めると全国で8の基礎自治体(市町村)が発表した。推進役の構想日本代表の加藤秀樹氏に狙いを聞いた。(聞き手はニュースソクラ編集長、土屋直也)
――ふるさと住民票とは、どんなものですか
親の介護で故郷と自分の居住地をしょっちゅう行き来している人、別荘などを持ち、月の半分は住んでいるのに住民登録という形での「住民」にはなっていない人、そういう二つ以上の地域で活動している人は増えています。「住民」の形が変わっているのです。そうした人の声を自治体の行政に反映し、さらに地域に溶け込んでもらいたい、そんなことからふるさと住民票を考えました。
――具体的な対象者は?
それは自治体ごとに違ってもいいと考えています。一般的には、先に述べた以外に、もともとその地の出身者やふるさと納税をしている人、自然災害などで避難している人、学生などの一時居住者などですが、自治体ごとに事情に合わせて決めればいいと考えています。
――登録することのメリットは
とりあえずは、自治体の広報誌を届けたり、専用ホームページを設ける一方、公共施設を住民料金で使えるようにしたり、祭りや伝統行事のお知らせなどといったところから始まるのでしょう。
相続や介護関係書類の入手や、遠隔地からの相続手続きなどをやりやすくするというようなことを考えている自治体もあります。
さらには、パブリックコメントを受け付け、住民投票に参加できるようにするなど意見を行政に具体的に反映させることもできると考えています。たとえば、原発の再稼働に関する住民投票に、ふるさと住民票を持つ人も参加できるということです。
――いつごろから検討していたのですか。
呼びかけ人の一人、福嶋浩彦さんが以前から構想し、それを受けて自治体と相談していたのですが、考え方の源流には、福島の原発事故後の問題がありました。全村避難となっていた飯舘村の菅野村長が、避難先と飯舘村の両方に住民登録できる2重住民票を国に求めました。結局、総務省は認めなかったのですが、実態として二重住民は増えているわけで、住民票制度が追い付いていない面があります。国の法改正を待ってはいられないというのが、ふるさと住民票創設の背景にあります。
――ふるさと住民票の分を加えれば、人口は減っていないという自治体も出てきますかね。
ふるさと住民票を持つ人は、準住民または応援団ですから、そういう人が多いと元気がでるという自治体はけっこうあるのではないでしょうか。この制度を始める香川県三木町の場合、町内に香川大学の医学部と農学部があります。その教職員はほとんど三木町には住んでいないのですが、日常時間の大半を三木町で過ごしている。その方々がふるさと住民票をとっていただければ、一気に何百人単位で若くてエネルギーのある「人口」が増えます。
ふるさと住民票の持つ、二重住民への対応は、実は都会の問題でもあります。千代田区の昼間人口が多いことはよく知られているとおりですが、昼間住民は選挙権がないので、区議会議員はその声を反映させることに熱心にはなれないでしょう。どうしても自分を選んでくれる住民だけに目が向きがちです。でも、昼間住民の声なしで本当のまちづくりはできるでしょうか。
繰り返しになりますが、ふるさと住民票は、居住の形が変わってきていることへどう対応していくか、という問題に応える意味があるのです。
ふるさと住民票の呼びかけ人
北海道ニセコ町長
北海道本別町長
福島県飯舘村長
群馬県太田市長
群馬県下仁田町長
埼玉県和光市長
鳥取県日野町長
香川県三木町長
福嶋浩彦中央学院大学教授(元千葉県我孫子市長)
山下祐介首都大学東京准教授
加藤秀樹構想日本代表
「ふるさと住民票」という試み |
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【編集長インタビュー】推進役の加藤秀樹・構想日本代表
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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