岸田首相は、1月4日の年頭記者会見で、「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。4月には「こども家庭庁」が発足する。岸田政権の政策の大きな柱となりそうだ。
この会見の3時間前には、小池都知事が「チルドレンファースト」社会の実現をめざして、2023年度から所得制限を設けずに、0歳から18歳の子どもに、1ヶ月5000円の給付を行うと発表した。これは、春の統一地方選挙を控えて、苦境にある自らの子飼いの政党、都民ファーストの会の候補者への援護射撃であるし、また来年の都知事選で3選を狙う思惑もある。
小池都知事にまんまと先を越される羽目になった岸田首相であるが、「異次元の」政策とは何をやるのか。具体案はまだ提示されていないが、甘利前幹事長が財源として消費税増税を示唆して大きな波紋を呼んでいる。
東京都の場合、月額5千円支給の対象は194万人であり、年に1200億円の予算が必要であるが、都は国からの交付金を受け取らない富裕な都市である。一般会計の予算(2022年)は7兆8010億円にものぼるので、このような大判振る舞いが可能なのである。
日本の出生数は、終戦直後のベビーブームのときは約270万人(1949年)、第2次ベビーブームのときが約200万人(1973年)と多かったが、今や、2021年が約81万人、2022年が約77万人(推計)と減少している。そして、今後もこの傾向は続くものと思われる。
そのことに危機感を持った岸田首相が、小倉将信こども政策担当相に対して、経済支援、子育て家庭向けサービスの拡充、働き方改革の推進について検討会を設置しして具体策を提示するように求めたのである。
少子化の原因がどこにあるのかを見極めることが必要であるが、多くの要因がある。子育てにカネがかかることは言うまでもないが、児童手当支給額の拡充というのも解決策である。現行では、3歳未満が15,000円、3歳以上小学校修了前が10,000円(第3子以降は15,000円)、中学生が10,000円となっている。ただし、所得制限がある。
この支給額を、たとえば第2子以降をさらに積み増す案や、対象を18歳まで拡大する案などがある。また、所得制限を撤廃するのも有効な対策となる。
次に子育て家庭向けサービスの拡充については、一時期大問題となった保育所不足・待機児童の問題については、最近はかなり改善が見られている。ただ、低賃金などが理由で保育士が不足しており、この点での対応が必要である。さらには、病児保育施設の拡充、学童保育の充実なども期待される。女性の社会的進出に伴い、保育の時間的制限などが問題となっており、延長保育などの手を打つ必要がある。
働き方改革では、欧米などの先進諸国に比べて、日本人の実質的労働時間は長い。別の言い方をすれば、効率の悪い働き方をしている。私は若い頃欧州諸国で仕事をしていたが、労働時間が長すぎると思ったことはない。
また、フランスでは結婚しないカップルの子どもの比率が高く、これも出生率を上げることに繋がっている。もちろん様々な子育て支援策があり、これが出生率を上げている。
それから、もう一つ特記しておきたいのは、日本では教育費がかかりすぎることである。幼稚園から高校まですべて私立にすると、15年間で学習費の総額は1700万円となる。全部公立でも500万円かかる。
これは、教育費の公的負担が少ないからである。とくに高等教育(大学など)がそうであり、これは欧米先進国と大きな違いである。大学を含め、教育の無償化を進めるべきである。また、給付型の奨学金を増やさねばならない。
教育費の負担という点では、韓国や中国でも事情は同じである。教育費のことを考えると一人を育てるのが精一杯ということになる。
2020年の合計特殊出生率は、日本が1.34なのに対し、韓国は0.8であり、中国は1.28である。受験に遅刻しそうな受験生をパトカーで送る韓国の受験地獄はよく知られているし、中国では習近平政権が一人っ子政策を止めても、2人以上の子どもを持とうという夫婦は減っている。
教育費の問題を解決しないかぎり、少子化問題は解決しない。
「異次元の」少子化対策?・・教育費に注目すべきだ |
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【舛添要一が語る世界と日本(176)】小池知事に先を越された岸田首相、さてどうする
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舛添 要一(国際政治学者)
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