リバウンドの兆候が明らかになる中、東京では2か月半ぶりに緊急事態宣言が解除された。そんな都庁では、今、今年初めてとなる都議会定例会が佳境を迎えている。7月の都議選に向け、各会派はコロナやオリンピックそっちのけで選挙モードに突入し、少しでも有利な立ち位置を確保しようと躍起になっているのである。
そんな折、ある奇妙な現象が都庁関係者の間で話題になっている。小池与党の都民ファーストの会が議員提案した条例案に、選りに選って共産党が賛成の意思を示したのだ。
共産党と言えば、小池都政一期目では築地市場移転反対の急先鋒として都議会で論陣を張り、移転延期を決定した小池知事に一時はすり寄ったものの、結局、豊洲移転になびいた知事にあっさり裏切られた経緯がある。
また一方で、都ファのコロナ条例には数々の曰くが付きまとっているのは周知の事実だ。もともと、昨秋、今回提案の元となるコロナ条例案を議員提案しようとしたのだが、会派内の足並みの乱れや罰則規定(感染者が外出自粛要請に反して一定人数以上に感染させた場合など)を巡る有効性への疑念から他会派の賛同を得られず、あえなく取り下げに至った。
最大会派とは言え、単独過半数に満たない都ファは、他会派の賛成なしに条例を通すことはできないのだ。
★条例ごり押しは都ファ内の一部勢力★
そして、昨年12月、修正案を改めて提案。そこには、検査拒否に5万円以下の過料を科すなどの厳しい内容が含まれていた。そして再び、拙速な罰則規定が不評を買って、二度目の取り下げと相成った。
こうした一連の動きは、知事与党の都ファが小池知事を支えるために一枚岩となって実施しているものではない。4年前の都議選で圧勝した都ファでは、発足当初から意思決定の不透明さに対して議員の間で不満が募っていた。その証拠に、これまでに8名の議員が都ファを離れ、だれもが異口同音に非民主的な党運営を離党理由に挙げている。
都ファは発足の成り立ちからして、小池知事の国政への足がかりとして知事自らが急ごしらした地域政党である。出身も、前区議、医師、弁護士など多士済々、中でも、旧民主党系の都議が選挙目当てに鞍替えして当選した勢力が幅をきかせる寄り合い所帯なのである。
旧民主党系議員にしてみれば、今年7月の都議選は小池旋風がほとんど期待できず、都ファの看板だけでは戦えないと危機感を募らせている。だからこそ、都民の気を引く具体的な実績がほしくてたまらないのだ。そこで、何度失敗しても執拗に繰り返されているのが議員提案なのである。
★7月の都議選は、都ファ・共産VS自公?★
ところが、罰則規定を外した最新の条例案に対し、小池与党だったはずの公明党は「罰則を抜いて何が残るのか」と都ファに反対の意思を突きつけた。そこに現れたのが共産党、つまり、敵の敵は味方というわけである。(公明党と共産党が犬猿の仲であることはご承知の通りだ。)
コロナ条例の他にも、都ファと共産党は子ども施策の推進に関する条例案を議員提案で共同提出する動きもある。都ファ・共産党の共闘路線が選挙目当ての一時的なものだとしても、都議選の不確定要素には十分なるだろう。
こうして、小池知事の最大与党に常連野党の共産党が相乗りする摩訶不思議な構図ができあがりつつあるのだが、その裏では、小池知事を4年以上にわたって支えてきた公明党の小池離れが着実に進行している。
3月19日、都議会の公明党と自民党は政策連携協定を締結し、都議選に向けた基本的な構えを鮮明にした。都ファ・共産の急接近を尻目に、都議会での自公復活は確かな流れのように見える。
そうなると、俄然注目を集めるのが小池知事の動向である。都ファ生みの親である小池知事は「我が子」を見捨てるのか。そして、自公とどう間合いを取るのか。7月以降の都議会が自公主導で回っていくことになれば、小池知事は手足を動かす自由を奪われ、都知事の座に居座る理由がますます乏しくなる。
であるなら、小池知事は国勢復帰に舵を切るのか。衆院解散の時期とも複雑に絡み合い、当分の間、都議選を巡る各会派の動向から目を離すことはできない。
小池与党に共産党が乗ったのはなぜ |
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【都政を考える】小池知事は都民ファーストを見捨てるのか
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澤 章(都政ウォッチャー)
1958年、長崎生まれ。一橋大学経済学部卒、1986年、東京都庁入都。総務局人事部人事課長、知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などを歴任。(公)東京都環境公社前理事長。2020年3月に『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)を上梓。著書に『軍艦防波堤へ』(栄光出版社)、『ワン・ディケイド・ボーイ』(パレードブックス)、最新作に「ハダカの東京都庁」(文藝春秋)、「自治体係長のきほん 係長スイッチ」(公職研)。
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