ネット上で誹謗中傷が続いていたタレントのアグネス・チャンさん。ついに殺人予告にまで発展し、逮捕された容疑者は中学生だった。ネット被害の実情と思いを聞いた。
――ネットでのアグネスさんへの殺人予告、「9月21日ナイフでメッタ刺しにして殺しますよ。君のアグネス御殿は血まみれになりますよ」にはびっくりしましたが、容疑者がつかまりました。法的措置などはどうして来たのですか?
「会社の判断もあって警察に届け出を出しました。具体的に9月21日という日付があったので警察は動いてくれたのでしょう。(予告が載った)ツイッタ―は書き込んだ人の情報は開示しないのだろうな、と思っていたのですがツイッタ―も動いてくれた。だからやっぱり、何処かで信じるしかない。いざとなれば皆どこかで動いてくれるのです」
――児童ポルノを規制したい警察が、アグネスさんに迅速に協力したという報道もありましたが。
「主人(元マネージャ―の金子力氏)は以前からネット上での誹謗中傷に関して警察や弁護士に相談していましたが、今回の脅迫事件になるまで警察は動けませんでした。プロバイダーなどが中々情報開示に応じてくれないからです。以前、匿名ブログで誹謗中傷があった時、プロバイダーの楽天に情報開示を求めたところ対応してくださり、書き手が謝罪してきた例はあります。その謝罪文はいまも私のサイトに掲載していますが、プロバイダーが対応してくださる例は少ないですね」
――容疑者は中学生でした。
「未成年なので実際、彼についてはハッキリとはわからないのです。ただ、彼の書き込みなどを見ると無責任な誹謗中傷に洗脳されちゃったのかな。結果的に少年も被害者ではないでしょうか。今回の事件は、子供の人権を守る活動をして来た私には本当に心が痛むことです。」
「いくら否定しても私に対する意図的な誹謗中傷は止みません。今回の少年が事件を起こしてしまったのは、ネットで拡散された事実無根の誹謗中傷を鵜呑みにしてしまったからでしょう。デマを拡散した人々にこそ責任があると思います。ちょっと公の情報を調べればわかることなのに。事実かどうか検証することもなく安易に間違った情報を拡散してしまう風潮もいけないと思います。面白がって、軽いノリで、拡散してしまう。実際はとても危ないことですよね。」
――心無い誹謗中傷はいつごろからですか。
「1998年に、日本ユニセフ協会大使に就任して最初の仕事が、タイでの児童買春、児童ポルノの現状視察でした。直接、被害者に会って、話も聞きました。買春客の中には、日本人も多くいるという話でした。それ以来、『児童買春、ポルノ禁止法』の成立に努力してきました。その頃から、ネット上での誹謗中傷が始まったのです。個人的に児童ポルノの規制に反発する人ばかりでなく、児童ポルノで商売をしている人もいますからね。昨年、法改正が行なわれて児童ポルノの単純所持が禁止になりましたが、それから排他主義の人たちと児童ポルノ規制を快く思わない人たちが一緒になって、余計にあることないことを書きはじめたように思います」
――ユニセフの活動からの報酬はあるのですか。
「日本ユニセフ協会大使は全くの無報酬ですし交際費などの必要経費も一切頂いていません。むしろ大使就任以来、現在まで数千万円の寄付をユニセフにしています。ネットには、日本ユニセフ協会が、国連のユニセフとは全く関係のない民間団体であるというような書き込みもありますが、まったく事実無根のデマです。日本ユニセフ協会は、ユニセフ本部の正式な募金の窓口であり、やましい点はひとつもありません。これはユニセフ本部や日本ユニセフ協会及びUNICEF東京事務所のホームページを見ればわかることです」
――「豪邸」と称されるこの事務所をユニセフの基金を流用したというデマがネット上に流布しているですが、どう思いますか?
「私がこの事務所兼、自宅を建てたのは1996年です。日本ユニセフ協会大使に就任したのは1998年ですよ。私は14歳で香港で歌手デビュー以来、40年以上も芸能界の第一線で活動しています。寝る間も惜しんで一生懸命に仕事をしてきた結果、現在の暮らしがあるのです。ユニセフの募金を流用することなどあり得ません。事実無根の嘘を広めるのは止めて下さい。」
――ヘイトスピーチなどが昨今問題になっていますが、アグネスさん自身40年以上前に来日されてから、中国人ということで差別に遭ったことはなかったのですか?
「私に直接言ってくることはほとんどありませんね。多くの日本の方は私を仲間として見てくれてるのかな。(嫌がらせの)手紙とかも少ないのですね。
――本当に差別は全然なかった?
「私は差別されたことはなかったと思う。最近、東方神起さんに抜かれるまで私はずっと外国人歌手のシングル総売上NO1でした。本当に多くの日本の方達が、応援して下さった結果です。だから、そういう排他主義の人たちは本当に一部の人たちだと思います。確かに外国人が嫌いな人たちはいると思います。ですけど、そういう人はほんの一部の人たち。むしろ沢山私を応援して下さる人たちがいることに励まされますし、感謝の気持ちでいっぱいです」
「今回、少年が犯罪まがいのことをすることになってしまった責任は、もともとネットの匿名性を利用して、無責任なデマを拡散したり、誹謗中傷をしたりした人にあると思います。そういう意図的に人を傷つけようとする人たちの活動を止めることは難しい。でも、ネットの情報を鵜呑みにしない、疑ってみることは誰にでもできます。そして、他人を批判するときには、十二分に事実を検証した上で、責任ある発言をしなければなりません。むしろネットの上でもヘイトを広めるよりは思いやりとか絆とか人を大事にする心を広めるようにしたい。」
「他人の人権を侵害する人は自分の人権を守ることも出来ない」ということを忘れてはいけないと思います。」
「今、ネット上だけを見ていると、私はすごくいじられやすい存在なんでしょうね。(笑) でも、実社会では応援して下さる人がとても多い。それは、日々日本全国で仕事をしていて実感します。最近は紙媒体も安易にネットの情報に乗せられるところは少なくなってきたように思いますしね」
――今後のユニセフの活動などはどうしていくのですか?
「活動は、もちろん継続していきます。子どもの人権を守るために、私は辞める訳にはいきません。それにもし私が差別されたとしたら、差別された人間こそ人に優しく出来ると思うのです。一人一人の出会いを大切にして『僕と同じじゃん』と私を感じてくれたら嬉しいですね」
「ユニセフの広報や募金の窓口を担当するユニセフ協会は世界36の国と地域にありますが、日本ユニセフ協会は、おかげ様でここ数年はずっと世界1位か2位の募金額をお預りしています。1998年に大使に任命されて、本当に一所懸命に活動に取り組んで来て募金もその頃から比べれば飛躍的に増えています。『アグネスが何を言ったって嘘だよ』っていう風評を作りたい人がいるのでしょうが、日本ユニセフ協会に対する信頼は、決してゆらいでいません。
――ユニセフをやっていることでネットで偽善者だと書き込まれてしまったわけですが、ネット普及以前からそう言われたことはなかったのですか?
「それは無かったですね。多分、やはり児童ポルノに取り組んだことが大きなきっかけだったと思います。それによって、児童ポルノを残したい人と、排他主義の人がくっついてしまって‥‥。でも彼らは、ほんの一部の人達です。私は現在も警察や弁護士と相談して具体的な対策をすすめていますが、人権侵害や名誉棄損、写真を無断で加工して使用したりする著作権の侵害行為などはすぐに削除して欲しいと思います。
――現在、ヘイトスピーチを法規制しようとする動きがあります。今回の事件を受けてその動きが加速するかもしれませんが。
「ヘイトスピーチなどをやる人々は、そうすることによって警察や政府がインターネットに介入してくる危険が増すことに気付くべきです。ヘイトスピーチによって色々なネットへの規制が広がり言論統制になりかねません。ネットは便利なものです。きちんと使えば自由な言論の場が得られるのですから、気をつけなければなりません」
――被害を受けた立場としては。
「第一に被害者は心を強くするしかありません。そして、自分たちがいかに正しくネットを使っていかなければならないか、声を挙げることです。ネットユーザーも、間違った書き込みを見つけたら自分たちでガードすることが大切です。自由で健康的なネットを保っていくために『この書き込みはおかしい、止めて。私たちのネット環境を汚さないで』と声を挙げなければ。自由なネットを守るためにも、皆が見て見ない振りをしないことです。警察が介入してきたり、ネットを規制する法律をつくろうという動きが出る前に自分たちで(誹謗中傷などに)『おかしい、止めて』と声を挙げることが大事です」
――今回の事件に至る伏線はありまして、例えば大阪では中学二年生の女の子がヘイトピーチデモの旗振り役をしています。
「いや―、だからそれはやっぱりもう、ネットの使い方に対する教育が大切ですね。学校でも家庭でも、正しいネットの使い方を教えていかなければなりません。」
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ネットで殺人予告されたアグネスチャンさん、真相を語る
公開日:
(ソサエティ)
撮影・角田
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角田 裕育(政治経済ジャーナリスト)
1978年神戸市生まれ。大阪のコミュニティ紙記者を経て、2001年からフリー。労働問題・教育問題を得手としている。著書に『セブン-イレブンの真実』(日新報道)『教育委員会の真実』など。
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