今月に入って、秋田や北海道、能登などの日本海の沿岸で粗末な木造船が漂着するケースが相次いでいる。船にはハングル文字が書かれており、中から遺体が見つかっている。どうやら北朝鮮からの船のようだ。過去にも北朝鮮船が日本海に漂着したことはあるものの、これだけ集中するのは異例だ。北朝鮮内部でなにか、深刻な事態が起きている可能性もある。
石川県輪島市の沖合で20日に見つかった木造船は3隻。中から8人の遺体が見つかっている。
かつて日本海周辺には高性能エンジンを積み、武装した北朝鮮の船が出没した。
覚醒剤の密輸などの犯罪行為に絡んでいたとみられ、海上保安庁の船と銃撃戦になったこともある。
しかし、今回は船の様子からして、民間人が十分な準備もなく、海に逃げ出したと考えられる。
実はこれだけではない。
韓国での報道によると、10月以降、タイやベトナムなどで、北朝鮮から中国を経由してきた脱北者が、相次いで地元警察に拘束されているのだ。これは氷山の一角だろう。
脱出しているのは、一般の住民だけではないようだ。
今年7月ごろから、朝鮮人民軍や、外貨稼ぎ部門の幹部が相次いで韓国に亡命したとの話も広まっている。韓国政府は詳細を明らかにしていないが、彼らから金正恩政権の内部情報を得ているという。
北朝鮮は、経済は上向いているという。食糧事情も安定しており、表向きは平静に見える。しかし、韓国の情報機関・国家情報院によれば、2013年暮れに起きた張成沢国防副委員長の粛清から始まって、80人近い軍や党の幹部が粛清、処刑されている。
最近では、金正恩の側近だった崔竜海党書記が、担当業務の不振を理由に肩書きを奪われ、農村で再教育を受けていると報道された。
こういった「恐怖政治」に、幹部や住民が嫌気がさし、脱出を始めたとも考えられる。
朴槿恵大統領は、7月に開かれた首相官邸の非公式会合で、「統一は来年にも実現するかもしれない」と語っていた。
韓国紙が最近すっぱ抜いた発言だが、北朝鮮内部の混乱について何か知った上での発言と考えれば、納得がいく。
北朝鮮の緊急事態については、隣接する韓国や中国は口をつぐんでいる。北朝鮮を刺激したくないためだ。しかし、密かに研究はしている。
最も有名なのは金泳三大統領時代の1997年7月にまとめられた「30日計画」だ。
北朝鮮の政権崩壊を7つのパターンに分類したうえで、その後1カ月間での韓国への難民流出が最大で約10万人、中国、ロシアへは約20万人、計30万人に上ると試算。日本から北朝鮮に渡った在日コリアンたちは、船で日本に向かう、とも予想していた。
基本的にこの見方は、大筋で今も通用するはずだ。
相次ぐ木造船の漂着が急変事態を予告するものなのか、単なる偶然なのかはまだ判断できないが、日本海から遙か離れた対岸を、注意深く見守る必要がありそうだ。
木造船が続々漂着、北朝鮮の緊急事態の予兆なのか |
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ハングル文字船には遺体、脱北幹部の韓国亡命も
公開日:
(ソサエティ)
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五味 洋治(東京新聞論説委員)
1958年生まれ。中日新聞社入社後、韓国延世大学留学。ソウル支局、中国総局勤務を経て、米ジョージタウン大学にフルブライトフェローとして在籍。著書に「父・金正日と私ー金正男独占告白」など。
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