三井不動産レジデンシャルが分譲した横浜市のマンションが傾斜した問題は、住宅・建設業界全体を巻き込む事態へと広がりを見せている。地盤への杭施工を担当した旭化成建材による電流計データの流用が発覚し、同社がこれまでに施工した他の物件でも同様のデータ改ざんが確認されている。また、杭の製造・施工では大手となるジャパンパイルでもデータ改ざんが発覚した。
まだまだ新事実が発覚しそうな雰囲気も漂っており、終着点が見えないまま問題はさらに深刻化していきそうだ。
今回の問題を引き起こした根本的な要因としては、建築業界特有の重層下請構造の弊害や現場管理システムの不備などが挙げられているが、地盤や杭に関する問題にも着目しておく必要があるだろう。
傾斜した横浜市のマンションでは合計473本の杭が打ち込まれ、このなかで70本の杭でデータの改ざんがあったという。70本のうち6本が支持層に届いていない可能性があり、このことが傾きの原因であると見られている。ただし、「6本のうち5本は支持層に届いていた」という報道も出てきており、真相はまだ明らかになっていないと言っていいだろう。
今回のマンションの問題が表面化する前に、同じように杭の施工不良で傾斜したマンションがある。住友不動産が2003年に横浜市で分譲したマンションでは、全5棟中のうち1棟が傾斜していることが分かり、支持層にまで届いていない杭があることが明らかになった。
このマンションを施工した熊谷組では杭の施工不良が発生した要因として、事前のボーリング調査では想定できなかった支持層の急激な落ち込みがあったことなどを挙げている。杭を打ち込む前に行う地盤調査で建設場所の全ての箇所を調査することは難しい。そのため、調査を実施しなかった地点の支持層が急激に落ち込んでいる場合、杭が支持層に届かないという事態が発生する恐れがあるというわけだ。
三井不動産レジデンシャルが分譲したマンションについても、支持層が最大40度も傾斜していたという。杭施工を行う事業者にとっては非常に難しい現場であったはずだ。なおかつ、地表から支持層までの地盤の抵抗値もあまり高くなかったという。抵抗値が高い地盤であれば、支持層に届いていない状態でもある程度の支持力を期待できるが、抵抗値が低い地盤ではそれも期待できない。
事前調査を実施した元請業者である三井住友建設と杭の施工を担当した旭化成建材は、建設地の地盤が非常に難しい条件を備えていることを認識していたはずだ。それだけに、いつも以上に細心の注意を払って事前の地盤調査を行い、調査結果に基づき適切な杭の設計と施工を行うべきだったのではないだろうか。また、マンションを販売する時点で、三井不動産レジデンシャルがこうした地盤の特性を購入者にどのような形で知らせていたのかという点も気になる。
地盤の状態が悪い場所に建つマンションであっても、適切な対応策が講じられていればリスクを極小化できる。東日本大震災では、千葉県の浦安エリアなどで深刻な液状化被害が発生し、戸建住宅が傾く被害が多発した。しかし、マンションが傾いたという話は聞えてこなかった。そのひとつの要因が建物を支える杭が支持層にはまでしっかりと届いていたからだ。
建築基準法では、一定規模以上の建築物の場合、杭の先端が支持層に到達していなければならないと規定している。通常の戸建住宅であれば、法的には支持層まで杭を打ち込む必要はない。戸建住宅の場合、支持層にまで杭を打ち込むのではなく、地盤の状況に応じて地盤改良工事などを行う。適切な改良工事を施せば、多くの場合は問題なく住宅を建てることができる。ただし、「地下水位が浅い」といった特徴を持つ液状化リスクが高い地盤では、付加的な対策が必要になる場合もある。この点については、最近になって戸建住宅用の液状対策技術も開発されており、地盤の液状化リスクを適切に判断し、こうした技術を活用して対策を講じることも十分に可能だ。
マンションであっても、戸建住宅であっても、建物を支える地盤の状態を判断し、それに見合った対策を講じなければ、自然災害などに伴い建物が傾斜するリスクを抑制することはできない。住まいを選ぶ際には事業者に地盤の状態を確認し、どのような対策を講じたかを確認しておく必要があるだろう。また、液状化リスクといった地盤に関する情報は自治体などでも公表している。“一生に一度”の高い買い物だけに、自らこうしたデータを確認しておくことも大切になりそうだ。