8日合格発表のあった司法試験。問題作成にあたった法科大学院(ロースクール)の教授が教え子のロースクール生に試験問題を漏洩したとされる問題が波紋を広げる中、合格者の最年少は実はロースクールに通う前の21歳の大学生だった。予備試験に合格して受験資格を得て、大学在学中にさっさと合格している。
法務省や裁判所などの法曹界は「キャリア官僚」の国家総合職に優秀な人材が流れるのを防ぐため、予備試験組の若手合格者の確保に躍起になっている。
現在の司法試験はロースクールを卒業して受験資格を得るのが原則だが、もう1つのルートとして予備試験がある。予備試験は経済的にロースクールに通えない学生や、仕事を持っている社会人にも法曹の道を開くための制度。しかし、予備試験に合格すればロースクールに通う必要がないため、実際には司法試験のショートカットになっている。
予備試験の合格枠を広げると、その分ロースクールに通う学生が減り、経営難に陥ってしまう。それでなくても、ロースクールは募集停止・閉鎖が相次いでいる。このため、ロースクール関係者から「大学生の受験を禁止すべき」との声が再三あがっている。今どき、大学には通えるがロースクールには経済的に通えない家庭が多いとは思えないとの指摘はうなずける。
しかし、法務省は頑として受験制限をしない。それどころか、司法試験改革があった2011年度には116人だったのが、2014年度は356人まで拡大した。これについて、関係者は「国家総合職に流れるのを防ぐため」と話す。
司法試験と国家総合職は「ライバル関係」にある。ある年の旧大蔵省のキャリア官僚の半数近くは司法試験にも合格していた。彼らは法曹の道を蹴って、キャリア官僚の道を選んだ。大蔵省接待汚職事件などキャリア官僚の事件や不祥事が相次いだ90年代後半は、両方合格した学生は法曹の道を選ぶケースもあったが、ロースクール制度が導入されると再び、キャリア官僚が優勢となった。
ロースクール経由で裁判官や検察官になるには最短でも25歳。試験合格後の1年間の司法修習期間は無給だ。近年は「『司法修習生貧乏物語』が芸人の若手時代の貧乏物語をしのぐほど」という笑えない話もある。一方、キャリア官僚は22歳でなれる上、研修中も給料が出る。大学生時代に予備試験に落ち、国家総合職にも落ち、ロースクール経由で司法試験に合格したロースクール生も多くなっている。
予備試験は学生にとっては司法試験のショートカットであり、法曹界としては人材確保のための欠かせないツールなのだ。今回の問題漏洩で、ロースクールへの信頼は揺らいだ。法曹界の予備試験重視の姿勢は一層強まりそう。さらに、予備試験合格者数の増加につながるのかもしれない。