日本最大の暴力団、山口組が内部分裂するのではないかとの情報が駆け巡っている。兵庫県警のある捜査員は「原因は6代目の司忍が強いる『参勤交代』。背景に九州進出を巡る対立がある」とみる。
6代目司忍は名古屋の弘道会出身。武闘派で知られ、資金力の高さが力の源泉だ。司が銃刀法違反罪で起訴されたとき、10億円の保釈金を即日集めて見せたことは有名だ。もっとも、弘道会は組内では非主流派。歴代のトップを出してきた山健組を中心とした主流派とは対立関係にある。
捜査員は「司は官僚的な性格で、内部管理を強めた。その一つが直参クラスの組長を本部や重要施設に交代で泊まらせて忠誠を誓わせること。『参勤交代』と揶揄されているが、この期間、トップを派遣している組はシノギが出来ず、不満が高まっていた」と語る。
では、なぜ今分裂情報が出るのか。捜査員は「背景に九州進出を巡る対立がある」と話す。九州では暴力団工藤連合壊滅作戦が進行中。作戦は警察庁暴力団対策部長などを務めた刑事畑の米田壮前警察庁長官の肝煎りで、国家公安委員長の最初の仕事を九州視察にして、内外に「本気度」を示してきた。今や福岡県警本部長は刑事畑の要職だ。
山口組は3代目田岡一雄の時代に「全国制覇」を掲げたが、工藤連合(当時は工藤会)の縄張りの九州だけは制覇できなかった。工藤連合はトップが殺人で逮捕・起訴されただけでなく、脱税でも摘発され、壊滅寸前。九州は現在「空白地帯」で、山口組が進出を狙うのは当然の成り行きだ。
工藤連合は工藤会と草野一家が「合併」して出来た組。草野一家は山口組では山健組と近い。主流派が司と袂を分かち、九州に活路を見いだす可能性がある。一方、司は報復攻撃を仕掛けるとみられる。「裏切りは許さない」が口癖の司が実力行使に出なかったら、求心力が一気に低下するからだ。
しかし、捜査員は「抗争は小規模に終わる」とみる。その理由は「使用者責任を問われないため」だという。使用者責任(民法715条)は従業員が事業の執行の過程で第三者に損害を与えた場合、その使用者も賠償責任を負うという規定。企業に適用されるのが一般的だが、最高裁は2004年、京都府警警部が組員と間違われて射殺されたいわゆる「藤武事件」で、山口組5代目渡辺芳則らに使用者責任を認める画期的な判決を下した。暴力団にとって、対立抗争は「事業の執行」にあたると認定したのだ。
これ以降、暴力団の間では「使用者責任を問われない」が合言葉になっており、今回も「使用者責任が問われないレベルの小物のけんか」に終わるとみられている。 山口組はかつて一和会と分裂し「山一抗争」を起こしたが、警察が分裂を仕掛けたとされる。当時、分裂オペレーションを担当した元捜査員は「当初はうまくいったが、結局山口組が以前より大きくなってしまった」と振り返る。今回は警察が「仕掛けた」とまでは言えないが「分裂をあおるくらいはしているだろう」と話す。