東京電力福島第1原子力発電所の事故発生から4年が経過した。ドイツやイタリア、スイスなど欧州各国の国民と政府は、地球の裏側で起きたレベル7(国際原子力事象評価尺度で最悪の水準)の原発事故の持つ意味を嗅ぎ取り、「フクシマの惨事」から1年も経たないうちに相次いで「脱原発」を決めた。
「原発大国」といわれたフランスでさえ、3年前の選挙で原発依存度を75%から50%へ下げる「縮原発」を唱えたフランソワ・オランド氏を大統領に選んだ。老朽原発の廃炉と再生可能エネルギーの利用拡大を加速している。
国を率いるリーダーに求められるのは広い識見と深い洞察力、さらに思い込みや好悪の感情に囚われないバランス感覚である。が、日本を背負って立つ人々には、これらの資質を総動員して未曾有の大惨事から学ぶという姿勢がさっぱり見えない。
まずは、安倍晋三首相。フクシマの惨事を「なかったこと」にしようと開き直っているかのように見える。典型的なのは2013年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会での東京五輪招致演説だ。
「(福島第1原発の)汚染水の影響は原発の港湾内で完全にブロックされている」
「状況はコントロールされている」
五輪招致に熱心なあまり、思わず口が滑ったのか、それとも批判を覚悟のうえで大ボラを吹いたのか。
政府与党関係者でさえ、わが耳を疑ったという〝大胆発言〟に対し、1週間も経たないうちに当事者である東京電力の山下和彦フェロー(技術顧問)が「(福島では)想定を超えてしまうことが起きており、今の状態はコントロールできていないと考えている」と異論を述べ、物議を醸した。
山下の「正直な発言」を巡って「首相の言うことを東電は否定するのか」と騒ぎになり、2週間後、東電社長の広瀬直己が衆院経済産業委員会に出席し「安倍首相が言われたように海への影響はしっかりコントロールされていると思う」と述べ、会社として軌道修正した。
しかし、山下の見解が正しかったことが1年半後に実証される。今年2月24日夜、東京電力は緊急記者会見を開き、福島第1原発2号機の建屋搬入口の屋上に溜まっていた放射性物質を含む汚染水が長期間にわたって外洋に流出していたことを公表した。
汚染水は「港湾内」にブロックできず、「外洋」に流れ出していたのだ。
昨年4月に流出を示すデータを把握しながら情報開示を怠っていたことで、東電はマスコミから集中砲火を浴びた。が、「港湾内で完全にブロックされている」と世界に大見得を切った安倍発言の信頼性について、もっと議論があって然るべきではないか。
菅義偉官房長官は翌25日の記者会見で「港湾外の海水の(放射性物質の)濃度は法令告示濃度に比べ十分に低い。汚染水の影響は完全にブロックされている。状況はコントロールされている」と安倍発言を擁護した。
だが、菅の発言の根拠になっている東電の会見内容を精査すると「十分に低い」とされた放射性物質濃度の測定場所は放水口から1㌔先の海上であるという。
1㌔も離れた海上を「放水口付近」とし、そこでの測定で「十分に低い」と断定することにどれほどの意味があるのか。
首相の大ボラを糊塗するために黒を白と言い替える。そんな政府が音頭を取る原発の再稼働を国民が支持するだろうか。