過酷な労働状況で社会問題化している「ブラックバイト」。コンビニ店でのバイトの待遇の悪さは今に始まったことではない。今も昔も問題になっているのは販売ノルマ達成にバイトが動員されていること。
「本部のおでんやおせちなどキャンペーン商品のノルマをバイト店員まで負担しなくてはならない」ということが店によっては日常茶飯に起こっている。
大阪の元セブン-イレブンオーナーの須田康市さんは、「オーナーになった当初は、本部から『アルバイトの人にも目標達成に協力してもらいないさい』と言われて、バイト店員の子にもノルマに協力してもろとったのですわ。せやけど、高校生バイトの子にノルマを協力して貰った時、親御さんからクレームが来て、その高校生はお店を辞めることになったのです。それから、ノルマを従業員に協力して貰うのは一切止めました。時給を高くして従業員の待遇向上に力を入れましたね」 と語る。
だが、そうしたオーナーがノルマ達成を拒否すると、他店にノルマの皺寄せが行くことになる。各店舗を指導する本部社員であるSV(セブン-イレブンではOFCと呼ぶ)は、概ね8店舗前後の担当店を抱えている。
本部に従順な店舗にノルマ達成を強制し、従業員に「(売れ残りおでんの消化のため)おでんパーティ―」などをしてもらうのは当たり前。気の弱いオーナーや新人オーナーには「従業員さんにノルマ協力して貰えないようでは、一人前ではありませんよ!」などと、ノルマ達成を強要する。
それでも、ノルマ分に満たない売上分はSV自らが自腹買いすることも当り前。店舗にノルマを強要するのを気が引けるSVなどは、消費者金融に手を出すこともあるという。
こうした行為は、「強迫による賃金強奪。あるいは、労働賃金未払いに相当する可能性がある」(労働問題に詳しい弁護士)という見解もあるから話は穏やかではない。
オーナーの中には確信犯的な「ブラックオーナー」もいる。兵庫県加古川市のファミリーマートで学生時代アルバイトしていたFさんは、食中毒になって店を休ませて欲しいとオーナーに懇願しても、「何で出勤しないんや!」と怒声を電話で浴びせられたという。
また、店内で雑誌を読みながらカップラーメンを食べる不良少年を注意したところ、暴れ出したので止む無くFさんは警察に通報したところ、「何で警察に通報するんや! ウチの店を潰す気か!」とオーナーから理不尽な叱責を受けたという。
Fさんは合計で3社5店舗を経験したが、「結局、良い待遇で働けるかどうかは、オーナー次第ですね。僕の場合は、JR西日本傘下のハート・イン(Heart・in)が、一番良かったですね。週5、6日働いても学業に支障が出ないように配慮してくれましたし、人間関係も良かったです」と振り返る。
今月からマイナンバー制がスタートする。コンビニ各店舗も例に漏れず、労働基準監督署が、「マイナンバー制導入に伴い、社会保険加盟対象者となる勤務時間をこなしている従業員さんはちゃんと加入させてください」と指導している。週30時間以上の勤務をこなせば基本的に社会保険加入対象者となるが、それだけ働いても社会保険に加入している従業員は、繁盛店で店長を正社員で雇っている余裕のある店舗位のもの。
コンビニ加盟店には、大きな負担だ。そうでなくても、本部のノルマ押し付けを拒否し須田さんのような従業員の雇用を大切にしてきたオーナーですら、「僕でも労働基準法を完全に遵守出来なかった」と告白するのである。
オーナーの中には、「マイナンバー制導入を機会に、本部のロイヤリィ率の見直しなどが問題になるのではないか」と労働基準監督署の指導強化を期待するという皮肉な声もでている。
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過酷なブラックバイトの現場
公開日:
(ソサエティ)
Reuters
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角田 裕育(政治経済ジャーナリスト)
1978年神戸市生まれ。大阪のコミュニティ紙記者を経て、2001年からフリー。労働問題・教育問題を得手としている。著書に『セブン-イレブンの真実』(日新報道)『教育委員会の真実』など。
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