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五輪中止の損失1.8兆円試算の専門家が語る 「感染拡大なら損失はるかに大きい」

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【木内前日銀政策委員の経済コラム(95)】海外観客なしで既に1500億円失われた

公開日: 2021/05/27 (政治, マーケット, スポーツ/芸術)

Reuters Reuters

 新型コロナウイルスの感染リスクを考慮して、東京オリンピック・パラリンピックは中止されるのでは、との観測が国民の間に燻っている。また開催される場合でも、どの程度の国内観客数を受け入れるかについてはなお未定である。これらは、東京オリンピックの開会予定日まで既に2か月を切ったこの時期としては、かなり異例のことだ。

 今年3月に海外からの観客を受け入れない方針を決めた時点で、東京大会の経済効果は相応に失われた、と言えるだろう。国内観客とは異なり、海外観客が訪日する場合には、一人当たり多くの支出をするためだ。

 100万人と想定された海外からの観客が日本で使うはずだった宿泊費、飲食費、交通費などの支出は、合計で1,511億円と試算される。海外からの観客を受け入れないと決めた時点で、その分の経済効果が失われたのである。

 2017年4月に東京都が公表した「東京2000大会開催に伴う経済波及効果」では、大会開催に伴う東京都の需要増加は、直接的効果で1兆9,790億円と試算されていた。このうち、大会開催の有無とは関係なく生じる新規恒久施設の整備費(都立恒久施設、新国立競技場)は3,500億円である。この分を除いた1兆6,290億円分が、大会開催の有無や観客制限の方策によって変化する経済効果と考えられる。

 その後、経済効果を変化させる要因が幾つか生じた。第1は、2020年に予定されていた大会が1年延期され、それに伴う追加支出が生じる見通しとなったこと。第2は、延期に関連して経費削減措置が講じられたこと。第3は、今年3月に海外観客の受け入れを止める決定をしたこと。第4は、新型コロナウイルス感染対策の経費が新たに計上されたこと、である。

 こうした変化によって、大会開催の経済効果がどのように影響を受けたかについては、2020組織委員会が2020年12月に公表した組織委員会予算V5(バージョン5)から推測できる。

 そこで、既に述べた東京都の試算、組織委員会の予算、そして海外観客の支出に関する筆者の試算に基づいて、現時点での大会開催の経済効果について試算すると、国内観客を制限なく受け入れるケースで、経済効果の総額は1兆8,108億円となる。大会が中止となれば、同額の経済損失が生じる計算だ。

  無観客開催の場合の経済損失は1470億円

 国内観客をどの程度受け入れるかについては、今後の新型コロナウイルス感染の動向をみて、6月に決定される予定だ。現状では、国内観客数が全く制限されない可能性は低く、無観客開催となる可能性も相応に高いと考えられる。

 そこで、国内観客半数受け入れケース、無観客ケースでそれぞれ経済効果への影響を試算した。試算では、チケット販売の予想額900億円がそれぞれ半分、ゼロになるとした。さらに、国内観客数の減少割合に比例して、観戦者の消費支出(大会に関連する宿泊費、飲食費、交通費など)の推計額が減少すると仮定した。

 国内観客数を完全に受け入れるケースと比較して、半数受け入れのケースでは、大会の経済効果が734億円減少、無観客のケースでは、1,468億円減少する。

 このように、国内観客の制限措置によって失われる経済効果、つまり経済損失がもたらす経済への影響は軽微と言える。2020年度名目GDPの規模と比べると、半数受け入れケースでは0.01%、無観客のケースでは0.02%に過ぎない。

 他方、大会を中止する場合の経済損失は1兆8,108億円と必ずしも軽微とは言えないかもしれない。しかし、2020年度名目GDPと比べると0.33%の規模であり、景気の方向性を左右する程ではないだろう。

 ちなみに、第1回目の緊急事態宣言による経済損失の筆者の推定値は約6.4兆円、第2回目は約6.3兆円、第3回目は現時点で実施が決まっているだけで約1.9兆円、この先延長が決まればさらに増加する見通しである。大会を中止する場合の経済損失は、1回分の緊急事態宣言によるものよりも小さいのである。

 このように、緊急事態宣言による経済損失と比べると、国内観客を制限して大会を開催、あるいは大会を中止する場合の経済損失は大きくはない。大会開催をきっかけに、仮に感染が拡大して緊急事態宣言の再発令を余儀なくされる場合には、その経済損失の方が大きくなる。

 以上の試算は、大会の開催・中止の判断、観客制限の判断については、その経済的な損失という観点ではなく、感染リスクへの影響という観点に基づいて慎重に決定されるべきであることを示唆している。

木内 登英 (前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)

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木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。
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